生き残るために「お客様第一主義」を取る

秋山耿太郎・朝日新聞社社長に聞く

たとえば毎月2回掲載している「GLOBE」の特集はそうとうな手間暇をかけて取材している。読者からはちょっと難しすぎるとの声もあるが、それでも紙面の質やブランドイメージを評価していただく企業からの広告出稿の要望はある。

朝日新聞に対する信頼感とブランドイメージを高めるという意味では、海外に向けたデジタルでの情報発信も今後強化していきたい。

今年2月から、アマゾンのキンドル向けに、朝日の英語ニュースをセレクトして配信している。世界中の読者からダイレクトに反響があり、在外の日本人向けや在日外国人向けに読者層が限られていたこれまでの紙媒体での発信とは大きく異なる。中国や北朝鮮など東アジアの動向についての、本社記者のリポートの評判がいいようだ。

――デジタルに関しては、大手メディアの中でも朝日は、同業他社にとどまらず、他業界との提携にも積極的ですね。

明治12年の創刊以来131年間、ほぼ新聞しか作ってこなかったのだから、社内に他事業の知識の蓄積はない。だが、新聞だけでは先細りになることが判明した以上、朝日新聞のブランド力を生かしながらも他社と組まないと、ビジネスの幅が広がらない。

 携帯電話向けの情報配信ではテレビ朝日、KDDIと協業している。au携帯向けの「EZニュースEX」の会員数は80万件を突破した。3社の共同事業という形でプラットフォームの一翼を担うことにより、コンテンツを提供するだけのケースと比べ、格段に収益が上がるモデルになっている。電子書籍配信でも、ソニー、凸版印刷、KDDIと共同でプラットフォームを構築・運営する事業会社を設立することで合意しており、年内のサービス開始を予定している。

偉大なポータルだった原点の発想に立ち返る

――デジタル時代における朝日新聞の「コアコンピタンス」とは何ですか。

「瓦版」から「新聞」となった明治初めのころの朝日新聞は、さまざまなコンテンツを集めた偉大なポータルサイトだったと思う。もともとの出発は、世俗のネタを中心に発達してきた「小(こ)新聞」だったが、政論を唱える「大(おお)新聞」の要素もミックスし、ありとあらゆる情報が載っている媒体となった。その時代から今に至るまで一貫して変わっていないのが、「お客様第一主義」の考えのはず。ジャーナリズムの側面があまり強くなりすぎると、その点が失われがちとなり、「お高くとまって」「世の中を斜めから見て」などと読者からの反発を招くことにもつながりかねない。

たとえば販売店や読者からの評判が非常にいいコンテンツの中に、朝刊一面の小さなコラム「しつもん!ドラえもん」がある。ジャーナリズムではないが、読者第一の視点からはこうした工夫が欠かせない。

それこそ創業者たちが、新聞という新しいメディアを世の中に普及させるために、夏目漱石を社員に迎えてその連載小説を載せ、真夏の甲子園で学生野球大会を主催したような原点に、立ち返る必要があると考えている。

そうした取り組みこそが、新聞がデジタル時代に生き残るための一つの糸口なのではないか。

『週刊東洋経済』2010年7月3日号[6月28日発売] 特集「新しい支配者は誰か? メディア覇権戦争」より)

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