生き残るために「お客様第一主義」を取る 秋山耿太郎・朝日新聞社社長に聞く

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――デジタル戦略の道筋は描けていますか。

世界中の新聞がデジタルにチャレンジしているが、全体としてはまだ、「これだ」という道を見いだせてはいない。

成功しているのは、ヤフーやグーグルといったプラットフォームを担うIT企業ばかりだ。新聞社のようにコンテンツの提供を行う側は総じて収益が上がっていない。

そうした状況であるため、コンテンツ提供に加えて、プラットフォームの段階から何らかの形で関与ができないものかと模索を始めている。

とはいえ、この分野は少し前の技術があっという間に陳腐化してしまうほど技術革新が速い。新聞社の成功体験によるビジネスモデルにこだわっていては、時代の動きについていけない。

とりわけ若い人たちには新しい時代感覚を学んでもらって、要員の配置も含め、ビジネスモデルを変えるべきものは変えていかなければならない。

技術革新は今後も止まらない。デジタル媒体も多様化して複雑になっている。だからテクノロジーの進展を敏感に感じるシステム部門の若手や、出版の最前線で電子書籍に詳しい若手など、社内のあちこちから人を集めているところだ。私も含めて新聞記者出身は大体技術がわからない(笑)。

コンテンツ提供の値付けの問題はこれから知恵を出していきたい。儲からないなら、やる必要がないのだから。

海外の例だと、有料化を進める「ウォール・ストリート・ジャーナル」や「フィナンシャル・タイムズ」などが成功事例に近い。国内では、日経新聞電子版の4000円(紙の新聞非併読)、産経新聞のアイパッド向けでの1500円の二つの事例がメルクマールとなる。

深い取材・データはデジタルでも通用する

――そうしたシフトの中で、紙の新聞、そして全国の販売網の位置づけは。

紙からデジタルへと舵を切るのではなく、紙もデジタルも、つまり両者の最適な組み合わせを追求していくしかないと考えている。

というのも、朝日新聞の収入の9割が紙の新聞によるものであり、それを支えているのが北は北海道の稚内から、南は奄美大島までの全国販売網であるためだ。

過疎地の販売店で後継者がいないようなケースでは、全国紙も地方紙も一つの販売店で売る「合売化」の流れも出ているが、日本列島を貫く太い販売ルートはしっかり維持していきたい。

 紙の新聞でも、デジタルでも、生き残っていくために必要なことは同じだと思う。商品力、競争力のあるコンテンツがカギとなるはずだ。ネットの世界はどちらかといえば情緒的なものも含めて雑多な情報があふれている。

紙の世界が対抗力を持ちうるとすれば、深い取材をして情報を取ってくること、そして確かなデータに基づいてファクトを示すことに尽きる。そうしたファクトに基づいた論理的な思考、考え方を提示できることも、紙媒体の特質だと考えている。

深い取材と確かなデータ、そして論理的思考。逆に言えば、そこさえしっかりしていれば、デジタルの世界でも通用する。よい紙面を作ることが、ネット上でも価値ある情報を提供できることにつながる。

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