日本の政治家が社会保障の議論から逃げている訳 負担4割増えるのに選挙の争点にもなっていない

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こうした事態に対して、措置はなされているか?

後期高齢者の自己負担率の引き上げや、年金のマクロ経済スライドの強化がなされているが、それだけでは十分でない。介護保険料の負担開始年齢の30歳への引き下げや、居宅介護支援の自己負担1割の導入などが検討されているが、実現はしていない。それ以外には特段の対策はなされておらず、放置されている状況だ。

誠に無責任な状態と言わざるをえない。

将来、どうにもならないところまで追い詰められ、ドラスティックな措置を取らざるをえなくなる危険がある。

例えば、厚生年金の支給開始年齢が70歳に引き上げられることも十分に考えられる。

後期高齢者保険における自己負担を、さらに引き上げることも考えられなくはない。

高齢者の生活は今よりずっと苦しくなるだろう。

立憲民主党は1000万円未満の所得税をゼロにするとしているが、以上の状況を考えると、無責任以外のなにものでもない。

人材を確保できるかどうかの問題もある

以上では給付と負担の問題を考えた。問題はそれだけではない。

医療介護においては、それを支える人材を確保できるかどうかも大きな問題だ。

人材不足はすでに大きな問題になっている。ハローワーク品川での介護関連職種の倍率は48倍を超えたという(朝日新聞、10月22日)。

15~64歳人口の減少によって労働者数が減少するわけだから、事態は今後さらに深刻になる。

外国人労働力に頼ろうとしても、日本の賃金が上昇しないので、海外から看護師や介護のための人材を求めることは難しくなる。

むしろ、日本から看護師や介護のための人材が海外に流出してしまう危険もある。

野口 悠紀雄 一橋大学名誉教授

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のぐち ゆきお / Yukio Noguchi

1940年、東京に生まれる。 1963年、東京大学工学部卒業。 1964年、大蔵省入省。 1972年、エール大学Ph.D.(経済学博士号)を取得。 一橋大学教授、東京大学教授(先端経済工学研究センター長)、スタンフォード大学客員教授、早稲田大学大学院ファイナンス研究科教授などを経て、一橋大学名誉教授。専門は日本経済論。『中国が世界を攪乱する』(東洋経済新報社 )、『書くことについて』(角川新書)、『リープフロッグ』逆転勝ちの経済学(文春新書)など著書多数。

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