「ロビ」生みの親が語る、開発の知られざる裏側 高橋智隆氏に問う日本のロボット普及への道筋
ロボットを広く普及させるために、もう1つ重要なことがある。それは開発の前提条件を変えることだ。
高橋さんによれば、これまでは「人間のやり方をロボットに代替させる」という発想で開発が行われてきた。小売りの現場で使う接客ロボットなら、人間と同じようにレジを打ち、お客からお金を預かって、レシートとお釣りを渡せるように作ろうと考える。だがこれでは作業効率的にもコスト的にも、ロボットを導入する意味はほとんどない。本当に社会の役に立つロボットを作るには、発想を大きく転換し、機械に適したやり方を前提とした開発が求められる。
「従来の前提を覆してイノベーティブなプロダクトを生み出した事例に、Amazonの物流センターに導入されているロボット『Kiva』があります。倉庫内を走り回って商品のピックアップや運搬をするのですが、このロボットのすごさは、商品を分類しなくても目当てのものが置かれた棚を自動的に見つけ出せること。
人間が作業する場合、例えば歯磨き粉なら『日用品の棚に設けられた洗面用具コーナーの中の歯磨き粉のスペース』といった具合に、あらかじめ指定された場所に商品を分類しておかなければいけませんが、Kivaは入荷データを元にどの棚にどの商品が置かれていても必要なものをすぐ見つけられる。
つまり人間のやり方とはまったく異なる前提で開発された製品なのです。それにより、分類の手間が省けるうえ、商品の点数や種類がどれだけ増えても柔軟に対応できる革新的な倉庫システムが誕生しました」
日本のロボット開発者に足りないもの
また、ロボット開発に取り組む日本のエンジニアは、個別の技術を磨いたり改善したりするのは得意な反面、大胆で自由な発想は苦手な傾向がある、と高橋さんは指摘する。
日本からイノベーティブなロボット製品を送り出すには、物事の仕組みやプラットフォームを理解し、より広い視野に立って開発の前提をドラスティックに変えることが必要だ。
「どんな世界でも、仕組みを理解した人は強いものです。例えば現代アーティストの村上隆さんは、アート市場の仕組みを知ったうえで、今の時代に日本人の自分が何を制作すればマーケットから高く評価されるかを戦略的に考えている。だから作品にあれほど高額な値段が付くのです。
私がロボット開発にスマホのサプライチェーンを活用するという発想に至ったのも、このプロダクトが世界の市場を席巻している仕組みを知ったからこそ。エンジニアはどうしても目の前の技術を追いかけがちで、視点がミクロに偏りやすいのですが、マクロな視点で世の中の仕組みを理解すれば、もっとそれぞれの技術力が日の目を見るはずです」
技術力だけでなく、物事を広く俯瞰して見る視点や従来の常識にとらわれない自由な発想力を備えていること。それがロボット業界の未来を担うエンジニア像と言えるだろう。
取材・文/塚田有香 撮影/竹田俊晴
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