「このままでは国家財政破綻」論は1%だけ間違いだ

矢野財務次官と筆者との「決定的な違い」とは?

第4に「経済成長が先だ」というが、たとえ画期的な成長が実現したとしても、国家財政の収入が1.5倍になるには、制度的に増税を実施しなければ無理である。新型コロナウイルスの危機によって、単年度の借金増加が約100兆円におよんだ。従来は「コロナ前」であっても、赤字額は40兆円あり、景気がいちばんよいときでも30兆円程度であった。税収は、近年で景気がいちばんよいときで60兆円程度。赤字がなくなるためには、約1.5倍の収入が必要だが、それは無理だ。

「次の危機」に財政出動ができるのか

第5に「高い経済成長が実現すれば、GDP(国内総生産)と政府負債の比率がGDPの大幅上昇によって下がる」という主張は、実際には実現しない。

まず、成熟経済においては画期的な経済成長は国全体では成立しえない。人口が数百万程度の国ならともかく、1億人以上の国でそれを実現することは不可能だ。

「アメリカは3億人以上でも比較的高成長をしている」というが、アメリカですら、高成長で借金を減らそうという主張は存在せず、リーマンショックやコロナショックに対して、大規模な財政出動はするが、危機後は速やかに赤字を減らすために、財政出動を手仕舞い、同時に増税の議論を行っている。

つまりアメリカは、経済成長は、財政のための手段ではなく経済成長自身の問題としてとらえ、財政赤字は財政の問題として、財政の枠組みの中で減らすのである。なぜなら、経済成長で借金を減らすことには限度があり、借金や赤字が多いままでは、次の危機において、大規模な財政出動はできないからである。

第6に、今後、財政支出の内訳を見れば一目瞭然のように、増える要因ばかりである。典型的なのは、高齢化による年金支出である。

ある程度の安定化措置がとられたため、際限なく財政支出が膨らむリスクは抑えられたものの、現在の年金支給では不十分という議論もあり、今後も支出が増え続けることは間違いない。政治的な判断によっては、激増する可能性も残っている。

そして、より問題なのは、医療保険制度の問題だ。これはそう簡単には歯止めがききそうもない。制度も複雑で、利害関係者も入り組んでいる。「年金は誰が負担して、誰がもらうか」という話に尽き、本来、構造は単純で、いざとなれば改革は容易のはずだ。だがこれはあくまで理論的にはということで、単純に利害が見えてしまうために、特に世代ごとの意見対立などで現実的、政治的には難しくなるという問題がある。

しかし、それでも決定的な危機に陥り、政治決断をせざるをえなくなり、そして、それを実行すれば問題は処理できる。やるべきことはわかっているのである。

一方、医療改革は絶望的に難しい。どうやれば、医師、病院、患者などが政策の意図するように動いてくれるのか、どういう妥協をすれば、利害団体が動いてくれるのか、難しい。やるべき政策を発見するのも難しい。利害関係者を動かすのはもちろん難しい。危機的状況になっても、解決策に踏み切ろうにも、明確な、正しいけど痛みがあるから出来なかったが、今はやるしかない、という政策ではなく、非常に練られた政策を今から考えて生み出す必要があるのである。

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