ジンズCEOがメガネ並みに「前橋」に入れ込む事情 「衰退した街」の再生にアーティストが次々参画
2021年9月17日、ブルーボトルコーヒーが群馬県前橋市に新店舗を出した。首都圏、関西圏以外では初の出店である。
でも、どうして前橋?と思う人もいるだろう。群馬県の県庁所在地ではあるものの、東京から行こうとすると高崎で新幹線から両毛線への乗り換えがあり、今ひとつ不便。ゆかりのある人でなければ、どんな街かを具体的にイメージすることは難しいかもしれない。人口30万人の中核都市であるものの、中心地のアーケード商店街はいわゆるシャッター通りで、人もまばら。お世辞にも栄えているとは言い難い。
だが、ブルーボトルコーヒージャパン ジェネラルマネージャーの伊藤諒氏は2020年12月に始めて前橋を訪れた時点で心の中で出店を決めていたという。いったい前橋に何があるのか。
元老舗旅館がアートホテルに
伊藤氏が訪れたのは市内中心部にある白井屋ホテル。白井屋は江戸時代に創業、旧宮内庁や森鴎外、乃木希典といった多くの芸術家や要人に愛された300年もの歴史を持つ旅館だったが、1975年にホテルに建て直され、2008年に廃業。しばらく放置されていたが、マンションに建て替えられるかもしれないという2014年に継承され、6年半という通常のホテル開発ではあり得ない、採算を度外視した時間をかけて再生された。
人気建築家、藤本壮介氏が設計した同ホテルには、レアンドロ・エルリッヒ氏や杉本博司氏など名だたる現代アーティストが作品を提供するなどして参加。今や日本有数のアートホテルに生まれ変わっている。
そんなホテルを継承、再生したのは前橋市出身の起業家であり、眼鏡の製造販売を手掛けるジンズホールディングスCEOの田中仁氏。街づくりには興味がなかった田中氏だが、2010年に起業家を表彰する「EYアントレプレナー・オブ・ザ・イヤー・ジャパン」で大賞を受賞し、翌年に海外の起業家と交流したことで意識が変わる。海外の起業家たちは、本業はもちろん、社会貢献活動にも熱心に取り組んでおり、その姿勢に衝撃を受けたのだ。
ちょうど50歳を迎える頃でもあり、会社と個人以外にエネルギーを使うほうが人生が豊かになるのではないかと考えた田中氏は2013年に群馬イノベーションアワード、2014年に群馬イノベーションスクールを立ち上げ、群馬県に起業家を生み出す活動を始める。
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