ジンズCEOがメガネ並みに「前橋」に入れ込む事情 「衰退した街」の再生にアーティストが次々参画

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白井屋ホテルの近くにある前橋中央通り商店街には2018年以降、ポートランドで人気のクラフトパスタ店、新感覚のどら焼きが話題の和菓子店、海鮮丼の店と、3軒の建築家が手掛けた新店が並び、休日、ランチタイムには行列ができるまでに。同じ通りには橋本氏が手掛けるカフェ+コワーキング、さらにお隣の弁天通り商店街にはブックバーなどと少しずつ店舗が変化し始めている。

クラフトパスタ「GRASSA」、和む菓子「なか又 前橋本店」、海鮮丼「つじ半 前橋店)と建築家が手掛けた3店が並ぶ一画。昼時を中心に毎日のように行列ができている(写真:筆者撮影)

今後も商店街内にある空き地を利用し、広場と店舗、住宅を組み合わせた複合施設が2カ所建設予定で、白井屋ホテルと同じ並びにある空き家はサテライトオフィスになる計画。白井屋ホテルが面する馬場川沿いの整備も想定されているそうで、白井屋ホテルも今の段階ではまだ点だが、これが徐々につながり、線となり、いずれは面になっていくのだろう。

「白井屋ホテルができるまでの6年半、街を案内していますが、来訪者が関心を持つのはこの地ならではの小商いであり、営み。ホテル完成までに時間があったのでそうした店舗等が出現、街に変化、厚みが生まれ、ホテル以外に楽しめる場が生まれた。それを生んだのが前橋ビジョンです」

「にぎわい」が生まれることの重要性

冒頭に「前橋に何があるのか」という問いを置いた。ブルーボトルコーヒーの伊藤氏がそれに答えてくれた。

(撮影:今 祥雄)

「白井屋ホテルのプレオープンに参加、その後に街歩きをしながらこの街の5年後、10年後の話、街のビジョンを聞き、そのエネルギーの大きさに感銘を受けました」

ブルーボトルコーヒーがアメリカで最初に店舗を出したのは人の来ない場所だったというが、カフェができたことで人が集まり、にぎわいが生まれた。カフェには街を変える力がある。同社が日本での最初の出店に当時はほとんど知られていなかった清澄白河を選んだのはその経験があったからである。

ブルーボトルの店内にも前橋を拠点に活躍する画家によるアートが(写真:Ben Richards)

とすれば、現在のにぎわいは今1つでも、官民が協力して生まれた双方が共感するビジョンを持ち、私財を投げ打って奔走する人、地元で活動する若い人がいて、うねりが起こり始めている街を応援しない手はないだろう。

伊藤氏は日本には詳しいものの、前橋についてはまったく知識のないアメリカ本社の人たちを前橋はブランドとして参加する意義のある場所と説得し、出店を果たした。前橋はこれからもっと面白くなると確信しているのだ。伊藤氏だけでなく、私も含め、これまで白井屋ホテルをきっかけに前橋を訪れた人たちもまた、同じように思っているはず。官民共通のビジョンが街を変えつつあるのである。

中川 寛子 東京情報堂代表

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なかがわ ひろこ / Hiroko Nakagawa

住まいと街の解説者。(株)東京情報堂代表取締役。オールアバウト「住みやすい街選び(首都圏)」ガイド。30年以上不動産を中心にした編集業務に携わり、近年は地盤、行政サービスその他街の住み心地をテーマにした取材、原稿が多い。主な著書に『「この街」に住んではいけない!』(マガジンハウス)、『解決!空き家問題』(ちくま新書)など。日本地理学会、日本地形学連合、東京スリバチ学会各会員。

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