70代でスタートアップに再入社した80歳の生き方 80歳・現役エンジニアが生涯夢中を貫けるワケ

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フォトシンスに入社した今も、スタンスは同じです。もともとこの会社には技術アドバイザーとして入社したのですが、「技術が好きなこと」や「エンジニアリングのプレイヤーとして仕事を手伝える」ことを以前から伝えていたので、会社が必要としたタイミングで技術の現場で働かないかと声を掛けてもらえました。

「やりたいことで役立てること」を、自分からちゃんと伝えていくことが大事ですよ。

社内で試作品の評価を実施する深谷さん(写真:『エンジニアtype』)

生涯夢中の秘訣は“やり切った感”の積み重ね

そうやって「好きなこと」を仕事にできる環境を自分の力でつくったら、あともう一つ大事なのは、成功体験ですね。

私が考える成功体験っていうのは、儲かった・儲からなかったみたいな話じゃなくて、エンジニア本人が「やりきった」という達成感や満足感を得られるような仕事ができたかどうか、ということ。そういうものがないと、仕事は長続きしないでしょう。

自分の成長意欲が自然とくすぐられるような成功体験をいち早く得たいなら、やっぱり自分から提案するのが手っ取り早いんじゃないかな。声を上げないと、チャンスすら巡ってこないかもしれませんからね。

私自身、自己PRは得意な方ではありませんが、会社としてやるべきことと自分がやりたいことの整合性をとりながら黙々と仕事を続けてきた結果、やりたい仕事が周囲に認知され、望まない仕事を最小限にできたように思います。

夢中になれない環境で働くデメリットは大きいですよ。やる気がなければ、仕事も充実しないし、キャリアの見通しも立ちません。会社や上司と率直に話し合いをすべきだと思いますし、もし打開策がない環境であることが決定的なら、会社の外へ出るという選択肢もありでしょう。

一方で、自分が管理職を経験したからよく分かるのですが、希望の業務に就けていない場合でも、会社や上司から見ると適材適所ということもあるんですよね。本人が気付いていないだけで。

ですから、安易に希望の業務に就けないと落胆するのではなく、与えられたチャンスの中で成功体験を目指すことが必要な場合もあると思います。職場の人間関係が好ましい状態であれば、コミュニケーションによってこれを的確に判断できるのではないでしょうか。

80歳を過ぎた今、いつまで働けるかということもたまに考えますね。一つ目安として考えているのが、運転免許証更新時の認知症テスト。今は90点台半ばですが、80点台を切るようになったら、老害にならないうちに引退することも考えるかもしれません。

ただ、仕事は楽しいから続けていると欲が出て、目安が甘くなる可能性もあるかもしれませんが(笑)。これからも無理なくベストを尽くしながら、仕事を夢中で楽しんでいきたいと思います。

(取材・文:古屋江美子 編集:河西ことみ(編集部))

株式会社フォトシンス エンジニア 深谷ヒロカズさん
1941年生まれ。大学卒業後、大手通信機メーカーへ就職し、CRTディスプレイ開発、アナログICの設計などに携わる。海外駐在、海外出張も多数こなし、中国の合弁会社立ち上げにも尽力。定年退職後は、マレーシアのセランゴール州政府の技術者育成プロジェクトに約10年間参画。2014年秋フォトシンスに入社。現在は回路技術コンサルタント(アドバイザー)業務とエンジニア技術実務(回路設計、回路基板評価、回路や部品の信頼性評価)を担っている。

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『エンジニアtype』編集部

キャリアデザインセンターが運営するwebマガジン。「どう創る? これから先のシゴト人生」をテーマに、エンジニアの今後の仕事選択・働き方・スキルアップなどに役立つ情報を配信している。

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