「由宇子の天秤」が突きつける報道と社会の在り方 春本雄二郎監督が語る衝撃作品を生み出した経緯

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――キャスティングにしても、題材にしても、商業映画の世界ではできないことをやろうと。春本監督が、独立映画製作団体「映画工房春組」を立ち上げたのも、そのための仕組み作りに尽力するためなのかなと思ったのですが。

やはり(興行収入を目的とした)商業重視の作品を作る場合、キャスティングは結局、プロデューサー主導になることが多くなります。納得できない人をキャスティングされてしまった時はつらいだろうなと思いますし、それで出来上がったものが納得いかないものだったら、死んでも死にきれない。

だからクリエーティブに口を出されないお金で作るのが大前提だなと思っていています。かつ商業的にもきちんと制作費を回収する。理想だけを追いかけて青いこと言うだけでなく、その両方が大事だなと思っています。

やりたいこともやるし、ちゃんと確かなクオリティーのものを作る。それをちゃんとお客さんに届けたら、今度はその人たちに次の作品のためのファンになってもらって、と。そうしたサイクルの循環を大きくしようと思っているところですね。

――以前、片渕監督に取材をしたときも、まずは自分たちの作品のファンになってもらい、そこから次の作品につなげるということをおっしゃっていました。そうした感覚が春本監督にもしっかりと受け継がれているように思います。

片渕監督にはものすごく勉強させてもらっています。プロデューサーとしてもものすごい方です。一作、一作、自分の作品を届ける中で大変な体験をされていて。次はどうしよう、だったら次は最初からここを巻き込んで作ろうみたいな、計算というか戦略はものすごく練ってらっしゃる方です。今もまさに新作のために勉強会を開いていますし。そうやってまわりを巻き込むんです。

お金がないならないなりに知恵を絞る

――「日芸イズム」がしっかりと受け継がれているのでしょうか。クレジットにも「日芸」の名前がありました。

そうですね。実は、劇中のテレビ局のシーンは日芸で撮影しているんです。テレビ局が貸してくれるわけないですし、どうしようかと思ったんですが、「日芸の放送学科には同じものがあったな」と。

お金がないなら、ないなりに知恵を使いましょうという考え方です。それは僕が助監督時代に学んできたことでもあります。商業の世界で、短期間で、少ない予算の中でどうやって成立させるのかっていうところは助監督時代に学びました。ただし少ない予算で映画を作るというこの状況自体は変えていかなきゃなとは思っているんですけどね。

壬生 智裕 映画ライター

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みぶ ともひろ / Tomohiro Mibu

福岡県生まれ、東京育ちの映画ライター。映像制作会社で映画、Vシネマ、CMなどの撮影現場に従事したのち、フリーランスの映画ライターに転向。近年は年間400本以上のイベント、インタビュー取材などに駆け回る毎日で、とくに国内映画祭、映画館などがライフワーク。ライターのほかに編集者としても活動しており、映画祭パンフレット、3D撮影現場のヒアリング本、フィルムアーカイブなどの書籍も手がける。

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