「由宇子の天秤」が突きつける報道と社会の在り方 春本雄二郎監督が語る衝撃作品を生み出した経緯

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――そこをベースに資金集めをしたと。

この映画は制作費1500万円で作っていますが、そのうちの半分は私の持ち出しと、松島監督や片渕監督、私の家族からの借り入れ、300万円ほどが「映画工房春組」という団体のクラウドファンディングで積み立てた分。500万円が文化庁の助成金でした。

――クリエーティブの面だけでなく、資金面でもお二人の功績は大きかったということですね。

そうですね。もちろん脚本も相談に乗っていただきました。その時はラストもまだ今のような形にはなっていなくて。脚本を書いては、お二人から与えられた宿題を考える、みたいな形で練りあげていきました。

お二人は全キャラクターに対して愛を持っている方たちで、キャラクターのその後の人生にまできちんと目配せしてくれました。ラストまで愛情を持って考えてあげられるという視点は見習うべきだなと思いました。結果、それによっていい芝居が撮れましたからね。

ロケ地高崎の全面バックアップは大きかった

――今回は高崎フィルムコミッションが製作協力に入っていたようですが。

今回の映画を完全持ち出しで作らなきゃいけないと思った時に、ロケ地はコンパクトに1カ所に集めて、合宿形式で撮るのが一番いいだろうという話になって。全面協力してくれるところといえば、高崎じゃないかと。

フィルムコミッションもあるし、シネマテークたかさきの人たちが行政を巻き込みながら、映画文化を培ってきた土地なので。映画館だけでなくて、地元企業の協力が半端ないんですよね。だからいろいろなロケ場所も、市の箱物だったり、県の団地だったりするところも、ほぼタダでお借りすることもできましたし、地元にあった空き物件などは多少お金は払わなければならなかったですが、それでもそうした全面的なバックアップは大きかったですね。

春本雄二郎/はるもとゆうじろう 1978年生まれ。神戸市出身。日本大学芸術学部映画学科卒業後、10年間映画やドラマの現場で従事したのち、現在の日本の商業スタイルでは自分の理想とする表現はできないと判断し、独立映画製作の道を選ぶ。初監督長編映画『かぞくへ』(2016)は、第29回東京国際映画祭に公式出品され、2018年に全国公開。2018年に、「映画監督と市民が直につながった映画製作」を掲げ、独立映画製作団体『映画工房春組』を立ち上げ活動をスタート。現在は、第3作目のシナリオ改稿と製作準備を始めながら、自身の演技ワークショップで幅広く俳優を求めている (編集部撮影)

――むしろこの規模の映画なら、もう少し制作費がかかっても良さそうだと思ったのですが、そこはやはり高崎市の協力が大きかったのでしょうか。

そうです。ロケ地が格段に安くできたということと、あとは宿泊費ですね。神社の宿舎に合宿形式で寝泊まりして。みんなで雑魚寝していました。そういうものがいろいろとかみ合ってできあがったのがこの映画ですね。

――瀧内公美さん、光石研さんをはじめ、川瀬陽太さん、『岬の兄妹』の松浦祐也さんと和田光沙さんなど、キャストも日本映画界を支える実力派がそろいました。

認知度よりも、自分が実際に見て、この役は絶対にこの人だったら任せられるという人をキャスティングしたいと思いました。そしてこの映画に役として出演する俳優部はほぼ、わたしのワークショップでお芝居を見させていただいた方から選抜させていただきました。

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