江戸時代の「寿司の値段」はいくらだったのか 捨てられるほどマグロが不人気だった理由

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それって車の値段? 日本近海で取れた本マグロが年の初めの初競りで1本1千万円以上の値がついたという話題がニュースになる今の時代。日本人のマグロ好きは有名だが、このまま行くとマグロが枯渇するので、何とかならないかと養殖実験がおこなわれているほどである。

だが、日本人がマグロ好きになったのは近年のこと。江戸の人々はさっぱりしたものが好きで、油っぽいマグロはどうも口に合わなかったようだ。「マグロを食べた」ということは、恥ずかしくて大声ではいえなかったらしい。

ちなみに、マグロは1本100キロ以上になる巨大な魚で、一度取れると大量に出回ることになる。だが、需要がないのだから安く買い叩かれる運命にある。それでも売れないときには捨てられることもあったそうで、今ではとても考えられない不人気ぶりだった。

曲亭馬琴が買ったマグロ1本の値段

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江戸時代を代表する読本(小説)の作者として知られる曲亭馬琴は、大変なメモ魔で、その日食べたものや買ったものの記録をつけていた。それによると、天保3年(1832)、マグロが大量に取れ、値崩れを起こす。70センチほどのマグロが1本200文(6000円)だったのを片身80文(2400円)に負けてもらって食べたという。

馬琴がこのマグロをどのように食べたかはわからないが、江戸で人気だったのが「ねぎま」という料理で、マグロとねぎを鍋で甘辛く煮付ける。それを肴に熱燗で一杯と考えると、江戸の人でなくとも生唾がわいてきそうだ。安くて体が温まる庶民の冬のおかずだったが、昨今はマグロが高くて、そんなぜいたくな食べ方はできない。

また、この時のマグロの大量流通が、江戸で生まれた握りずしにネタとして使用されるきっかけとなった。ただし、現在のように大トロにワサビをつけて酢飯の上に乗せたりはしなかった。当時、冷蔵保存方法が発達していなかったため、日持ちがするように、さらに油っぽさを取り除くべく、醬油につけた「漬け」にしてから酢飯の上にのせた。

大石 学 東京学芸大学名誉教授

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おおいし まなぶ / Manabu Oishi

1953年、東京生まれ。1982年、筑波大学大学院博士課程単位取得退学。徳川林政史研究所研究員、日本学術振興会奨励研究員、同特別研究員、名城大学助教授。2009年、時代考証学会を設立、現在同会会長。NHK大河ドラマ『新選組!』『篤姫』『龍馬伝』『八重の桜』『西郷どん』の時代考証を担当している。おもな著書に『新しい江戸時代が見えてくる』『時代劇の見方・楽しみ方』『大岡忠相』(以上、吉川弘文館)、『徳川吉宗』(山川出版社)、『地形でわかる東海道五十三次』(朝日新聞出版)、『一冊でわかる戦国時代』『一冊でわかる幕末』(以上、河出書房新社)などがある。最近刊は『今に息づく江戸時代』(吉川弘文館)。

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