上海の「学習塾」閉鎖、保護者が計画倒産を疑う訳 政府の教育改革政策を隠れ蓑にした可能性も

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上海の老舗学習塾の「緑光小児教育」は9月3日、教室の閉鎖を突然発表した(写真はイメージ)

9月3日午前、20年近い歴史を持つ上海の老舗学習塾の「緑光小児教育」が教室の閉鎖を突然発表した。我が子を通わせていた数千人の保護者は、苦情の訴え先もなく途方に暮れている。同社が保護者に払い戻していない授業料は、少なくとも数千万元(1元=約17円)に上る模様だ。

緑光小児教育は児童向けの英語教育からスタートし、算数、国語、晩託班(訳注:放課後に児童を預かり宿題指導も行うサービス)などへと業務を拡大。直近は上海で30カ所近い教室を運営していた。

同社はミニブログの微博(ウェイボー)を通じて教室閉鎖を保護者に伝えるとともに、各校舎の担当者が「9月3日午後1時から、未受講分の授業についての(保護者の)申し出に対応する」と説明した。

ところが、それを知った保護者が(自分の子どもを通わせている)緑光小児教育の浦建路校に駆けつけると、すでに教室の入口は閉鎖されていた。そこには「緑光小児教育の職員ではない」と自称する人物が1人だけ待機しており、子どもの氏名、申し込み課目、未消化分の授業数を記入する用紙を保護者に配っていた。教室の職員は全員が姿を消し、授業料払い戻しの見通しに関する返答は得られなかったという。

教室閉鎖の直前まで追加受講を勧誘

中国では最近、多数の学習塾がドミノ倒しのように倒産に追い込まれている。その背景は2021年7月末、中国政府が詰め込み教育の是正を目的とした教育改革政策を発表し、学習塾の新規開設禁止や非営利化などを打ち出したことだ。

しかしそんななかでも、緑光小児教育の閉鎖は予想外の出来事だった。と言うのも、倒産に追い込まれた学習塾の多くは、生徒募集のマーケティング費用や(有名講師をスカウトするための)運営費用に巨額の先行投資をしていたオンライン学習塾だったからだ。

その点、緑光小児教育は老舗学習塾としての信用の蓄積があり、保護者のクチコミを通じてオフライン(対面授業)の生徒を獲得できていた。このため(経営が一気に傾くほどの)多額のマーケティング費用は不要だったはずなのだ。

本記事は「財新」の提供記事です

浦建路校に子どもを通わせていた保護者によれば、同社は「自分たちの授業は受験勉強ではなく(心の成長を育む)情操教育だ。政府の教育改革政策の影響は受けない」と説明し、教室閉鎖の直前まで追加受講を熱心に勧誘していたという。

授業料をまとめて前払いすれば割引が受けられるため、閉鎖前の1週間以内に新たに授業料を払い込んだ保護者も少なくなかった。

このような経緯から、「緑光小児教育は計画倒産したのではないか」と多数の保護者が疑っている。政府の教育改革政策により、学習塾業界は先細りが避けられない。同社の経営者は手を引くなら(余力のある)今のうちと考え、政策の影響による破産を装い、(授業料払い戻しなどの)問題の責任を政府と社会に押しつけようとしている可能性がある。

(財新記者:任蕙蘭)
※原文の配信は9月3日

財新 Biz&Tech

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