ミサイル網担う奄美「有事の島外脱出策ない」深刻 陸自配備から2年、6万人近い島民をどう守る?
鹿児島県と沖縄本島のほぼ中間にある奄美大島が中国を意識した「南西諸島有事」の拠点になりつつある。この夏には日米合同の軍事訓練が行われ、秋には約10万人を動員する過去最大規模の自衛隊演習もある。しかし、本当に有事となったら、6万人近い島民をどう避難させるかの具体的計画は何もない。奄美大島に限らない。「いざ」というとき、誰が住民の島外脱出を担うのか。誰がどうやって、その命を守るのか。
今年6月26日、いつも静かな奄美市の名瀬港は、異様な空気に包まれていた。アメリカ軍の大型輸送船が着岸し、地上配備型迎撃ミサイルの発射台を搭載した大型軍事車両が次々と姿を現してくる。沖縄の嘉手納基地からやってきたアメリカ陸軍の地対艦誘導弾・パトリオット部隊だ。
沖縄以外で展開されるのは初めて
北海道の矢臼別演習場や滋賀県の饗庭野演習場など各地で行われていた、陸上自衛隊とアメリカ陸軍による実践訓練「オリエント・シールド21」(6月18日~7月11日)。訓練は、陸自の奄美駐屯地でも7月1日から始まることになっていた。アメリカ軍のパトリオット部隊が、沖縄本島以外の南西諸島に展開されるのは初めてだ。
名瀬港を迷彩服姿のアメリカ軍人が闊歩していく。カメラを構えた歓迎ムードの島民がわずかにいる。反対行動はなかった。2019年、自衛隊の2駐屯地受け入れにあたっても、奄美の人々は、一部を除いて強く抗議はしなかった。その点は、同じ南西諸島であっても、ミサイル部隊の配備に強く反対してきた宮古島・石垣島とはかなり様相が違っている。
前日の6月25日、奄美市の中心部では、日米合同訓練に反対する集会が開かれた。集まったのは30人余り。ハンドマイクを持った70代のリーダーは「おととし春から自衛隊が来て、皆さん、奄美の生活は豊かになりましたか? 『自衛隊はいいがアメリカ軍はダメ』と言ったって、自衛隊のいるところに必ずアメリカ軍は来て、訓練をやるんです」と声を上げた。
別の50代男性は、こう訴えた。
「奄美市長は、自衛隊は受け入れるがアメリカ軍は入れない、とはっきり言った。それならこの訓練に反対を表明すべきだ。明らかに中国をにらんで、自衛隊もアメリカ軍もこの島に来て、ミサイルを構える。ここは攻撃対象になってしまう。何もなければ取るに足りない島で、攻撃される可能性もなかったのに」
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