ミサイル網担う奄美「有事の島外脱出策ない」深刻

陸自配備から2年、6万人近い島民をどう守る?

「事前集積」という軍事用語がある。軍事衝突で制海権・制空権が奪われた場合、特に島嶼部の部隊は、どのくらい持ちこたえることができるのか。半年か、数週間か。それは、事前にどれだけの武器弾薬・燃料・食糧と兵員を「集積」しておけるかに掛かっている。つまり戦争の勝負は「事前集積」で決まる。

かつての沖縄戦でも軍事物資の集積場所は真っ先に狙われた。事前集積用の船舶は、ことごとく沈められた。準備ルートをすべて断ち切れば、相手は戦争を始めることができない。戦わずして勝てる。兵站拠点を叩いておけば、自国の兵士を上陸戦で死なせずに済むのだから、事前集積拠点が攻撃目標になるのは戦争のセオリーだ。要塞化が進む南西諸島の中で、尖閣諸島や台湾から遠いと言っても、奄美は先に攻撃対象になってしまう可能性すらあるのだ。

もっとも、そんな危機感は地域の住民にまったくない。奄美駐屯地がある大熊町の町内会長、畑秀義氏は「奄美の人は自衛隊にいい感情しか持っていない」と断言する。大熊地域の9割以上が自衛隊の誘致や存在に賛成だという。

「隊員は、海に向かう道の雑木伐採とか、地域行事とかも手伝ってくれるんですよ。一番は災害のときですね、2010年の豪雨のときもずいぶん助かったんです。災害に対処してくれるというのが住民にとっては一番大きいです」

奄美では、地元の観光協会など10の団体が自衛隊誘致を国に働きかけ、要請を受けて防衛副大臣が来島し、自衛隊配備が進んでいったことになっている。大熊地区も誘致に動いたのだろうか。

「うちの町は誘致に一切絡んでいません。それは市や県のほう。町に直接お金が入ることもないです。まあ、いろんなものを作ってくれるということは今後、あるかもしれませんが。ただ、アメリカ軍が入ってくるとなると、賛成できないですね。沖縄の苦しみは聞いてますから」

大熊町の畑秀義町内会長(筆者撮影)

世界自然遺産エリアの隣にある瀬戸内駐屯地

今度は瀬戸内駐屯地に向かった。駐屯地内には巨大なトンネル型弾薬庫がある。奄美市中心部から南へ50分ほど。道の両脇には、美しい山々。トンネルも多い。この地形も、島嶼防衛戦では有利だとされる。車載型ミサイルを撃って、すぐに移動してトンネル退避することができるからだ。

この7月21日、「奄美大島、徳之島、沖縄島北部及び西表島」は、世界自然遺産に登録されたばかりだ。豊かな大自然に隠れながら戦争をするというのが、今の想定だ。その自然遺産エリアのすぐ隣に瀬戸内駐屯地はある。ゲートの前に立っても、敷地の周りを走っても、目視では規模も何もわからない。標高の高い斜面に造られているため、最大の軍事機密であろうトンネル型弾薬庫も見えない。

瀬戸内駐屯地のゲートには、ライフル銃を縦に構えている隊員がいた。奄美駐屯地では撮影も止められたのに対し、こちらでは比較的丁寧に応対してもらえた。カメラを回しながら、いくつか質問させてもらった。

――宮古島、石垣島と違う奄美大島の自衛隊の役割はなんですか?

「それは防衛省のほうに聞いていただいたほうが正確にお答えできると思います」

――奄美の人たちを守るために来たんですか?

「奄美と言うより、もともと国を守るためにわれわれはここにいますので、奄美のためだけというよりは……」

――有事の際の、住民の避難、安全確保の訓練やマニュアルはありますか?

「防災訓練は警察や消防の方々と一緒にやっています」

――それは災害時ですよね。有事の際に、住民の避難のために人員を割くことは?

「避難だけのために割くことはないんですが、危険なところにいる方を外に出したりっていうことはあります」

実は、自衛隊やアメリカ軍が南西諸島有事への備えを強める中、語られていない重大事がある。奄美大島の全住民は、約5万8000人。小さな子どもや高齢者も含めたこんなにも大勢の住民を、有事の際、どうやって安全に島外へ脱出させるのか。その役割はだれがどう担うのか。

瀬戸内駐屯地の正面ゲートで取材に応じる自衛隊員=一部加工しています(筆者撮影)
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