ミサイル網担う奄美「有事の島外脱出策ない」深刻

陸自配備から2年、6万人近い島民をどう守る?

もっとも、奄美大島の暮らしの中では、自衛隊の問題が取り沙汰されることはほとんどないという。奄美に住む筆者の友人は新たな自衛隊基地ができたことすら知らなかった。反対が少ないというよりも、特段の関心がないらしい。鹿児島ローカルの新聞やテレビでは、この問題は奄美支局の地域ネタとして捉えられ、大きく扱われることもほとんどなかった。そうしたことも関心の薄さにつながっているようだ。

「オリエント・シールド」は、「東洋の盾」という意味だ。このタイトルでの日米合同訓練は1985年から継続的に実施されてきた。35回目の今年は自衛隊1400人、アメリカ軍1600人が参加。合計3000人という数字は過去最大規模で、中国を意識して日米の軍事連携強化を内外にアピールした。

南西諸島有事を意識した訓練は、まだある。今年10~11月、陸自は全国の部隊を動員した過去最大規模の演習を予定しているのだ。

島嶼防衛のための部隊展開のみならず、人員・軍事物資の輸送体制や後方支援の課題を探る狙いがあるという。動員される約10万人は相当な数だ。「中国との軍事的緊張が高まっていて南西諸島が戦場になりかねない」という前提がまるで自明であるかのように、民間の輸送機関も巻き込みながら全国の自衛隊では有事即応体制の構築が進んでいく。

ミサイル基地が敵の標的になることは確実

「オリエント・シールド21」の実施に合わせ、筆者は奄美大島を訪れた。沖縄のアメリカ軍基地問題や先島(宮古群島・八重山諸島)の自衛隊ミサイル基地建設問題の取材を続けてきたが、自衛隊基地開設後の奄美取材は初めてだ。

日米合同軍事訓練「オリエント・シールド」に参加するアメリカ陸軍のPAC3部隊。沖縄の嘉手納基地から奄美大島に到着した=名瀬港、今年6月26日(住民撮影)

奄美大島の陸自施設は、奄美駐屯地(50.5ヘクタール)と瀬戸内駐屯地(48ヘクタール)に大別される。このうち、奄美駐屯地は、奄美市の中心部から車で北へ15分ほどの大熊地区にある。もともとゴルフ場があったという、山の中。道路沿いのガードレールの上で背伸びしないと見えないような場所に駐屯地はあった。

見ると、建設途中の屋内型射撃場が目を引く。横に250メートルはあろうかという大きさだ。その傍らにはピラミッド型の弾薬庫、その隣には地対空ミサイル搭載車両がズラリと並ぶ。地対艦ミサイルの「掩体」もある。

ただし、掩体に天井はない。奄美大島での状況を早くから取材している軍事ジャーナリストの小西誠氏によると、戦闘になれば、陸自の部隊は掩体内からミサイルを打ち続けると同時に、敵の攻撃を受けた際には爆発の影響を最小限に食い止めなければならない。攻撃しながら守る。その双方の目的を達成するための構造になっているという。敵の標的になることは確実なのだ。

小西氏は言う。

「奄美だけでなく、宮古島・石垣島に配備される自衛隊のミサイル部隊は、第一列島線と呼ばれる島々を結ぶラインから中国海軍を外に出さないための役割を負っています。それは、海峡を封鎖するアメリカの軍事作戦の一環です。しかし、奄美の場合は攻撃拠点というよりも、兵站拠点としての役割のほうが大きいのではないでしょうか」

軍事衝突が想定されているのは、沖縄本島よりもさらに大陸寄りの先島方面(宮古島や石垣島)だ。奄美駐屯地は、軍事物資や弾薬・燃料などを先島方面に補給する最前線の集積拠点として、重要な役割を果たす。それが小西氏の見立てだ。表向きはアメリカ軍のFCLP(陸上離着陸訓練)のために防衛省が確保したとされている大隅諸島の馬毛島(鹿児島県)も、同様に先島の軍事衝突に備えた自衛隊の兵站拠点として活用されるという。

「瀬戸内駐屯地には、トンネル型の奥行250メートルもある弾薬庫が5本も掘削されています。近くにヘリパッドがあるので、ミサイルや弾薬をここからどんどんヘリで空輸するんですね。行き先は先島方面です」

地対艦・地対空ミサイルを搭載した車両が並ぶ陸上自衛隊奄美駐屯地(筆者撮影)
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