「米国のアフガン撤退」で日本に求められる役割 戦術的失敗で戦略目的を見失ってはならない

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それと比較すると、C-2要員派遣は翌8月24日未明、避難民輸送用の2機のC-130は同24日夜に出発しており、格段に速い。避難民を空港まで輸送する陸自部隊の活動(未経験)や追加派遣された政府専用機の自己防御能力等の改善余地はあるものの、自衛隊は現場経験を積んで着実に即応できる実力をつけている。

一方、政府の対応では、決断時期や情勢分析、法的根拠等の課題が改めて浮き彫りになった。中国は、4月にバイデン大統領が9月までの完全撤退を表明したことを受け、6月中旬にはアフガン情勢に関する安全保障会議を開き、「撤僑」(アフガン在住中国人の撤収)、「促和」(アフガン政府とタリバンの和平交渉を促す)、「軍演」(アフガンからテロリストの侵入を防ぐための軍事演習の実施)という具体策を決めたと言う。

この方針に基づき、7月7日には自国民保護のチャーター便を派遣、7月末までに帰国を希望する中国人の撤収はほぼ完了したと中国外交部は発表している(中国ビジネスフォーラム代表、沈才彬)。韓国も、8月26日に起きたカブール空港爆破テロ事件の前日までに、在留韓国人全員とアフガン人協力者365人を空輸、退避させている。危機では、一瞬の判断の遅れが重大な結果をもたらすことが常にある。

明確的な戦略目的が必要

日本は、在外邦人の安全確保のみならず、台湾海峡や朝鮮半島の危機、尖閣諸島防衛等のより困難な事態を想定し、政府全体の危機対処能力を平素から高めておかねばならない。自国と自国民を守る意思と能力を持つことは、アメリカのコミットメントを確実にする必要条件でもあるのだ。

戦術的な失敗は明確な戦略目的があれば決定的な痛手にはならない。逆に、戦略目的が曖昧であれば戦術的勝利も意味を失う。バイデン大統領は責任のたらい回しはしないと断言し、アフガン戦争を終結させた。その戦略目的は対中競争へのリバランスである。すでに起きてしまった撤退作戦の失敗は、対中競争という戦略目的を共有する同盟国の協力による克服が不可欠だ。日本はその先頭に立たねばならない。

(尾上 定正/アジア・パシフィック・イニシアティブ シニアフェロー、元空将)

地経学ブリーフィング

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『地経学ブリーフィング』は、国際文化会館(IHJ)とアジア・パシフィック・イニシアティブ(API)が統合して設立された「地経学研究所(IOG)」に所属する研究者を中心に、IOGで進める研究の成果を踏まえ、国家の地政学的目的を実現するための経済的側面に焦点を当てつつ、グローバルな動向や地経学的リスク、その背景にある技術や産業構造などを分析し、日本の国益と戦略に資する議論や見解を配信していきます。

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