「米国のアフガン撤退」で日本に求められる役割 戦術的失敗で戦略目的を見失ってはならない

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事前調整もなく一方的に撤退の現実を突きつけられた欧州諸国は、自国民退避の時間的猶予を得るためのアメリカ軍撤収期限の延長要請も拒否され、バイデン政権への失望と怒りを隠さない。バイデン大統領は、ABCニュースの取材に、「NATO(北大西洋条約機構)や韓国、台湾はアフガンとは違う」「NATO同盟国への防衛コミットメントは揺ぎない、日本、韓国、台湾についても同じだ」と述べた。

だが、オバマもトランプもアジアへのリバランスを公言しつつ、実態は伴わなかった。バイデン外交も「アメリカ・ファースト(アメリカの国益優先)」が本質であることが明らかとなった今、同盟国への防衛コミットメントは揺るがないという大統領の言説は、今後の行動によって裏付けられる必要がある。

20年近くにわたる「最も長い戦争」を終結させ、中国との大国間競争に集中するという戦略転換については、おおむねアメリカ国内でのコンセンサスがある。日本にとっても歓迎すべき方向だが、撤退作戦の失敗は、すでに疲弊し大きなダメージを受けているアメリカとアメリカ軍にさらなる負荷を課してしまった。

情報見積もりの誤りと杜撰な撤収計画、またアフガン国軍育成の失敗やテロの温床除去から「民主的な国作り」に目的がすり替わった原因、等々への批判や責任追及に今後のアメリカ政治はエネルギーを取られるだろう。中間選挙や2024年の大統領選挙での争点となり、トランプ前大統領支持派との国内分断が一層深刻化する懸念もある。

アメリカ軍の「敗戦の傷」は深い

ベトナム戦争との安易な比較は慎むべきだが、20年に及ぶ派兵で2万人以上の兵士が負傷し、2461人が戦死したアメリカ軍の「敗戦の傷」は深いだろう。また、待避で混雑する空港を狙ったIS-K(イスラム国ホラサン)の自爆テロは、抑え込んできたテロ集団を再活性化するかもしれない。バイデン大統領は、アフガン内戦への介入は終結させたがテロリストの脅威は世界中に転移しており、テロとの戦いは継続すると述べている。

このような苦境に立つアメリカを新たな孤立主義に追いやってはならない。まずは、英仏独豪をはじめアメリカに裏切られた思いの国々とバイデン政権の信頼回復が不可欠である。アメリカは、さまざまな戦術的失敗を認めたうえで、同盟国等と真摯に向き合い、テロとの戦いとアジア太平洋へのリバランスの戦略を共有し、実行性のある資源配分と役割分担を協議する必要がある。自信を強める中国の「東昇西降」というナラティブに対抗することも重要であり、バイデン政権が12月に予定する民主主義サミットを「民主同盟」結束の場とする必要がある。

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