実はシビアな競争社会「歌舞伎の襲名」意外な実態 一般家庭の出身で活躍する俳優も少なくない
ここからは歌舞伎俳優についての基本について解説する。
歌舞伎に詳しくなってくると、文字情報で「○○代目」と「△△世」の二通りを目にする。結果からいうと、意味に相違はない。よく目にするのが「五世菊五郎」「九世團十郎」、最近では「六世歌右衛門」「十八世勘三郎」などだ。共通するのは故人。つまり亡くなって偲ぶ場合に多い。
ただ厳密に決まっているわけではなく、故人でも「代目」は併用される。面白いことに西洋では「ルイ14世」「エリザベス2世」などで表記され、「代目」は使わない。文字情報でと断ったのも、音声情報つまり劇場内の「かけ声」で「世」は使わない。理由は現在活躍しているということもあろうが、「発音しやすい」ためではないだろうか。
また、署名は単なる「サイン」ではない。色紙に俳画を描き「六世菊五」とした六代目尾上菊五郎や、隈取を絹布に写し「九代幸四郎(二代目松本白鸚)」と署名し掛け軸などに表装する。
五、六、七、九代目は特定の役者の代名詞
かけ声は大衆芸能の歌舞伎ならでは。コロナ中はできないが、舞台と客席との交流、声援だ。七代目は「なな」でも「しち」でもよさそうだが、日本語は(歌舞伎だからではない)決まっている。正解は「しちだいめ」。
それでは「四代目」と「九代目」は? 正解はこの項の最後に記す。四の候補は「し」「よん」「よ」と3つもある。芝居通になると自分で声をかけたくなるが、間違えると「赤面」、いや間違いに気づかないことが「思い込み」のこわさだ。
歴代、何万人という歌舞伎役者がいる中で、「十五代目」といえば市村羽左衛門を指す。同様に「五代目」「六代目」「七代目」「九代目」の「四人」は限定されている。もちろん、四百年のときどきで、「何代目はいいよねえ」「何代目のあれ評判だぜ」という具合に名前を出さず特定の役者の代名詞になっていたことだろうが、現在では明治以降の名優を指す。
「五、六」は実の親子、二代にわたる尾上菊五郎、「七」は松本幸四郎(現在の松緑、幸四郎、海老蔵の曽祖父)、「九」が明治天皇の展覧歌舞伎の立役者で「劇聖」とまでいわれる市川團十郎である。この四人は歌舞伎の近代化や演劇改良、多くの後継者に影響を与えた名人たち。現行演出のお手本を作った名優なので、数字が代名詞になったのである。
正解:四(よ)代目と九(く)代目
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