日本で流行する「脱成長論」は正しい選択肢なのか 山本康正×小島武仁「資本主義の未来」(前編)

ブックマーク

記事をマイページに保存
できます。
無料会員登録はこちら
はこちら

印刷ページの表示はログインが必要です。

無料会員登録はこちら

はこちら

縮小

山本:ベンチャーの世界では「売上がすべてを癒す」といわれます。売上が伸びれば期待感が湧き、モチベーションが上がって、「自分たちが社会に影響を与えているんだ」と思えるようにもなる。そういう流れはありますが、その因果関係が正しいかどうかは経済学で確かめられるのかなと思いますが。

小島:社会への貢献とESG経営の枠組み、そこのギアが嚙み合う状態をどう作ればいいかということですよね。ゲーム理論的なところでもありますが、考えさせられる問題です。伝統的な経済学に立てば、やはり企業はプロフィットを上げることが最重要課題であるから、必ずしもESG経営を頑張ることには期待しすぎず、そこは政策で上手くカバーすべきだ、という発想をします。ただ、政策を動かすのは大変なことですから、そこだけに頼ろうとは手放しでいえません。今の日本や他国の現状を見ていると、資本主義をやめる前にやらなければならない政策があるのではないでしょうか。

今、政府が検討しているカーボンプライシングもそうですし、DXの大前提となる周波数帯の有効な使い方の見直しでもそう。そこで政府が果たすべき役割は意外と大きいのではと感じています。

新しいテクノロジーで本当の支援ができるようになった

山本:先ほどのGDPに代わる新指標についての話題にも重なるのですが、デジタル通貨の普及は経済学的にはどうご覧になっていますか。全面的にデジタル通貨に移行すれば、お金の流れがマクロ的に捕捉されるようになりますよね。

小島:デジタル通貨に関していえば、「実際はどのくらいまで捕捉できるか」が重要になってくると思います。たとえば、最近私はフードロスの問題に興味を持って調べているのですが、貧困層に食べ物を配るフードバンクがありますよね。ところがアメリカの事例を見ると、じつはソーダやお菓子のような肥満につながるような食べ物が届いて捨てられるケースも結構あるんです。

ですから、本当の意味でフードロスをなくしていこうと思ったら、なにを送るのが適切なのか、そもそも彼らは普段なにを食べているのか、物を送ったら浮いたお金で野菜を買おうとするのか、それともまったく違うものにお金を使ってしまうのか、といった要素まで捕捉しておかないと、根本的な支援にはならないのです。そのために、デジタル通貨などで消費の捕捉がよりできるようになるならば、より効果的な対策を打てるようになるかもしれないと期待しています。

次ページ一方で心配も…
関連記事
トピックボードAD
ライフの人気記事