日本で流行する「脱成長論」は正しい選択肢なのか 山本康正×小島武仁「資本主義の未来」(前編)

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山本:ブータンは「世界一幸福な国」とメディアでは報道されますが、実際に訪れてみると衛生状態などは決してよくはない。ひとつの指標だけでは現実は安易に判断できません。そういった問題を解決していくには、経済的なリテラシーも必要ではないでしょうか。全国民がそれを身につけるのは難しいかもしれませんが。

小島:おっしゃる通りですね。ただ、人間はエビデンスを聞いたからといって納得するわけではないんですね。そこが難しい。行動経済学のナッジ理論(人の心理を踏まえて行動変容を後押しする工夫)などを使うことで受け入れられ方は変わるという研究はいくつかありますが。発信する側である学者や研究者、メディアなどに工夫が求められる部分だと思っています。

なぜ日本のESGは後れを取っているのか?

山本:ワクチンのようにデマが発生しやすいテーマだとなおさら大事ですよね。因果関係が証明されていないにもかかわらず、「副反応で何名亡くなりました」と発信するメディアがいると、社会全体が損を被(こうむ)ってしまう。ワクチンは正の外部性です。接種することによって自分だけではなく、他の人たちも守られるわけですから、その外部性を正しく使わなければいけないのですが、社会的な公益よりも目先の売上を優先すると、そういったことが引き起こされてしまう。

アメリカの企業は自分たちが社会的な意義を持つべきだと強く意識しています。さまざまな大企業が、SDGs(持続可能な開発目標)やESGを意識した経営戦略をどんどん打ち出していますよね。でも、じつは同じような風潮は日本にもずっとあったはずなんです。「売り手良し、買い手良し、世間良し」といった近江商人の三(さん)方良しの思想。環境・社会・ガバナンスに配慮するESGに近い考え方が日本には昔から存在していました。にもかかわらず、今の時代になってからはそれが機能しなくなっている。

小島:いわゆる、“貧(ひん)すれば鈍(どん)する”なのでしょうか。

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