日本で流行する「脱成長論」は正しい選択肢なのか 山本康正×小島武仁「資本主義の未来」(前編)

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このように私は大いに期待しているのですが、一方で心配もしています。たとえば、コロナ禍では地域振興券をデザインする自治体が数多くありましたよね。このときにデジタル通貨を使うとなると、これはパワフルなテクノロジーの一種ではあるのですが、同時にガバナンスが非常に必要になってくる。経済学のよくある議論としては、地域だけで使えるものを作ると、しばしば非効率性も生まれます。そのため、デジタル化によって使いやすい通貨を自治体が簡単に作れるようになると、かえって社会全体にとって悪い結果になるというパラドックスもあり得るわけです。どの程度まで限定すればサステナブルになるのか、自治体が税金を投入して行うだけの意義があるのかは、慎重に検討すべきだと思います。

本当に必要な支援を実現した意外なモノ

山本:制度設計次第である、ということですよね。日本円だけのやり取りのほうが圧倒的に使い勝手はいいわけですから。ただ、デジタル通貨の長所をうまく活かすことができれば、そこのコストを大幅に抑えることにもつながるかもしれません。

小島:アメリカの食料支援NPOで「フィーディング・アメリカ」という団体があるのですが、そこではある種のトークンエコノミー(代替通貨)のような取り組みをして実装に至っています。どういうことかというと、それまでは各地のフードバンクやフードパントリー(食料支援)に食べ物を送る際、どこのフードバンクに何が必要とされるかが把握できていなかったため、混乱がたくさん起きていたそうなんですね。そこでトークンエコノミーを作って「鶏肉、缶詰、オムツ、どれを何ポイントで買いますか?」という疑似的なオークション仕様に変えたところ、合理的に必要なものが行きわたるようになったという成功例があるんです。

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