日本で流行する「脱成長論」は正しい選択肢なのか 山本康正×小島武仁「資本主義の未来」(前編)

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この仕組みを考案した経済学者が、フードパントリー運営者にいわれた言葉というのが印象的でした。どういう言葉だったかというと、「自分は資本主義が嫌いで不正義を正すためにフードパントリーをやっていた。それなのに、結局のところお金に限りなく近いトークンエコノミーを導入することが合理的な支援につながった」といわれたそうです。貨幣の素晴らしい力って、そこなんですよね。欲しいものを手に入れるための、価値の交換手段だということをもう一度、原点に返って認識すべきではないでしょうか。

このままでは安全保障でも後手に回ってしまう

山本:高成長を続ける中国が世界に先駆けてデジタル人民元の運用を開始したのとは対照的に、日本では「脱成長だ」「GDPなんて伸びなくていい」という考え方が支持され始めています。この傾向が続くと、世界のマネーから日本だけが取り残されることになるでしょう。そうなると研究費が削られ、投資先にも選ばれなくなり、テクノロジーの進歩も当然後れてしまう。安全保障的にも弱い立場に追いやられるでしょう。そういう未来を真剣に考えたら、「自分たちは成長しなくていい」と本当にいえるのか、という思いが私はありますね。

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小島:おっしゃる通りです。さらに、仮に脱成長が環境にいいことが証明されても、一国だけでやれるものではない、という大きな問題があります。地球環境の問題ですから、国単位で政策をやってもうまくは進まないでしょう。

サンフランシスコ・ベイエリアは、環境問題に厳しい規制がありますが、緑が綺麗で街並みも整っていて、すごく住みやすい裕福な都市です。ただ、本来ならばそこで大勢の人々が暮らせるはずが、一部規制により起こされた地価の高騰によって住めなくなった人々が、環境保護規制の弱いテキサスなどに大勢流れ込む事態が起きているといいます。結果、全体で見たときの環境負荷はより高まっているという議論もあります。地方や国でも同じことが起きていないか、常に意識する必要があるのではないでしょうか。

山本 康正 ベンチャー投資家、京都大学経営管理大学院客員教授

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やまもと やすまさ / Yasumasa Yamamoto

東京大学で修士号取得後、NYの金融機関に就職。ハーバード大学大学院で理学修士号を取得し、グーグルに入社。フィンテックやAI(人工知能)などで日本企業のデジタル活用を推進し、テクノロジーの知見を身につける。日米のリーダー間にネットワークを構築するプログラム「US-Japan Leadership Program」諮問機関委員。京都大学経営管理大学院客員教授。日本経済新聞電子版でコラムを連載。著書に、『シリコンバレーのVCは何を見ているのか』(東洋経済新報社)、『世界最高峰の研究者たちが予測する未来』(SBクリエイティブ)、『アフターChatGPT』(PHP研究所)、『テックジャイアントと地政学』(日本経済新聞出版)など。

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小島 武仁 経済学者、東京大学大学院経済学研究科教授

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こじま ふひと / Fuhito Kojima

東京大学マーケットデザインセンター(UTMD)センター長。1979年生まれ。2003年東京大学卒業(経済学部総代)、2008年ハーバード大学経済学部博士。イェール大学博士研究員、スタンフォード大学助教授、准教授を経て2019年スタンフォード大学教授に就任。2020年に母校である東京大学からオファーを受けて17年ぶりに帰国し、現職。専門は「マッチング理論」「マーケットデザイン」。

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