ゆうちょ銀行、JICが映し出した課題は、日本において運用に最適なガバナンスを確立する難しさだ。グローバル標準の運用体制を実現するには、特に、インセンティブ設計と意思決定という2点で、今までの日本の雇用慣行上の考え方を根本的に変える仕組みを実現しなければならないからだ。
躓く運用改革と背景にある構造問題としてのガバナンス
金融は極めて高度な専門性を必要とする分野である。ファンドマネージャーたちが超過リターンを求めて経済合理性を追求し合うプロの世界は、スポーツのトップ・アスリートの世界に近い。世界の強豪と戦える専門家を雇い育てるためにはグローバル標準の報酬体系・人事制度が欠かせない。
ただ、それは必ずしも人員獲得のための金額の多寡という限定的な意味ではない。適切なリスクをとることを後押しし、執行においては迅速な意思決定を許容し、一方で透明性を確保して厳しく結果責任を求める、そのようなガバナンスの仕組みそのものだ。
投資目標・投資基準や責任所在が明確ではなく、リスク回避的なマインドで定年退職まで逃げ切ったほうが得で、投資判断の決裁に1カ月かかるような組織では、高額な外部運用委託費用ばかりが積み上がって、良い成績は上がらない。
また、多額の運用を行えば、短期で見れば損失が出る局面は必ず起きる。四半期等の短期の期間損益の表面上の数字に一喜一憂せず、投資目的や期間に照らし、リスク勘案後の適正なリターンへの評価をする忍耐力も必要だ。だからこそ、明確な長期戦略とそれを実現するための組織のガバナンスの仕組み、それをやり切るまで譲らない断固たるトップの意志がないと実現できない。
日本では、国内市場の縮小や世界的な低金利環境によって金融機関にとっては非常に厳しい状況が続いている。特に民間の機関投資家が運用能力の向上を真剣に考えなければ、巨大な船がじわじわと沈んでいくように縮小均衡に陥るだけである。いつかは貯蓄率の減少で減っていく「眠ったお金」に、まだ潤沢なうちに目を覚ましてもらい、持続的な国民の厚生と健全な資金循環による活力のある経済の一助とするのには、官民両方の覚悟が求められる。
(向山淳/アジア・パシフィック・イニシアティブ主任研究員)
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