さまざまな個別施策のうち、個人の資産運用を後押しするNISA導入、世界最大の公的年金であるGPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)のガバナンス改革、日本版スチュワードシップコードの策定など、漸次的ではあるが一定程度進んだものもある。一方で、日本の投資運用業の運用能力の向上に関しては、官・民共に、構造的な根深さを感じさせる事象も多く起きた。
200兆円という世界的に存在感のある規模で運用を行う、ゆうちょ銀行の運用力向上の取り組みは道半ばで停滞した。2015年の日本郵政グループ上場を機に、運用を強化する方針を打ち出し、日本国債中心の投資から、株式・外債・ヘッジファンド、PE等のオルタナティブ資産へのシフトによる運用力の深化を図った。海外ファンドマネージャーを意識した報酬体系で多くの運用のプロフェッショナルを登用し、日本の金融機関として先進的な取り組みを進めるかに見えた。
しかし、改革を主導したゴールドマン・サックス出身の佐護勝紀副社長(当時)が2018年にソフトバンクグループに転出するなど、当時「7人の侍」と呼ばれ、改革を主導した幹部の半数が退社。以降、戦略投資領域とするオルタナティブ投資残高の拡大目標を当初の半分に引き下げるなど、リスクテイク姿勢も後退している。
官民ファンドの活用も苦戦
また、政府が主導するリスクマネー供給策も困難に直面した。日本では歴史的に間接金融が中心だった構造上、欧米のようなエクイティ資金の循環に国民も企業も慣れていない。民間では大胆なリスクが取りにくいとの課題があるなら……、と政府主導の呼び水効果を期待し、官民ファンドの活用が構想された。
結果として、省庁の縦割り論理で10を超える各省庁傘下の官民ファンドが乱立。また、第4次産業革命時代の国内向けのリスクマネーの戦略主体として設立された株式会社産業革新投資機構(以下、JIC)では、2018年末、発足して3カ月で経産省との間で報酬水準を巡り対立、田中正明社長ら取締役9人が一斉に退任した。
田中氏は辞任会見で「いわば『民のベストプラクティスを活用する官民ファンド』ではなく『100%近い株式を保有する株主として、国の意向を反映する官ファンド』へと重大な変化を遂げ」たことで「わが国の将来のためにと思って志した目的を実務的に達成することは困難」になったため辞任した、と述べた。
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