人の限界を超えるテクノロジーは「神への冒涜」か ネオ・ヒューマンと「人工流れ星」で考える科学

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訓練された素のままの人間が競うことももちろん面白いのですが、テクノロジーでもって競うこともまた、面白いと思ってもよいのではないでしょうか。健常者のスポーツでも、競技によっては道具を改良しています。それと同じなのですから。

テクノロジーは、人間を前に進めるための力になりますし、そうあるべきだと思います。私は、普段は、そうある「べき」という言葉は使わないようにしているのですが、これに関しては強く信じています。

科学は人間の知恵そのもの

「科学を社会につなぎ 宇宙を文化圏にする」というミッションとともに、人類の持続的な発展に貢献したいというのが、弊社の考えです。科学は、たびたび、自然破壊と結びつけて考えられがちなのですが、しかし、自然破壊を救うことができるのもまた、科学であり、テクノロジーだと思っています。

光合成するバクテリアが初めて誕生したころ、排出される酸素は、当時のほとんどの生き物(バクテリア)にとって猛毒でした。同じように、人間が排出している排気ガスが毒であるという問題があります。でも、人間がバクテリアと違うのは、「これはダメだ」となれば、新しいテクノロジーを考えて、その排出物をなんとかしようとすることです。

日本では「科学技術」と表現されていますが、これは2つの意味を混同しています。本来は、「科学=サイエンス」、「技術=テクノロジー」です。

普通の言葉の定義とは違うかもしれませんが、私は「技術=テクノロジー」とは、直線的なものだと思っています。速くなる、安くなる、小さくなるといったものですね。でも、考え方をガラリと変えてしまうためには、「科学=サイエンス」が重要になります。

たとえば、かつて、ニューヨークが馬車の時代だったとき、馬糞が大問題になっていました。テクノロジーで考えると、「馬糞が少なくなるように餌を改良する」とか、「馬糞を処理できる設備を開発する」という方向へと向かっていきます。

しかし、科学によってドラスティックに変えることを考えると、エンジンというものが発明され、それが自動車の開発につながっていくことになります。そして、自動車ができると、馬車は使われなくなり、馬糞問題は一気に解決するのです。これが、科学のもたらすイノベーションです。

科学によるイノベーションは、人間の知恵そのものだと言えます。だからこそ、便利さだけを追求するのではなく、人間の生活を良くしなければなりませんし、そうあるべきだと私は思うのです。

ですから弊社は、エンターテインメントとしての「人工流れ星」を研究しながら、同時に大気のデータも観測することによって、地球の気候変動や異常気象などを解明していく研究にも貢献していきたいと考えています。また、持続的に科学が発展できるように宇宙環境を守るための、宇宙デブリ防止装置も開発しています。

ピーターさんは、まさに「科学」的な発想の転換で、生き延びることができました。さらに、そのイノベーションを、人類の持続的な発展、進化のために使っているのがすごいところです。これからも、科学の進化は、人間の生活をよくしていくでしょう。

岡島 礼奈 ALE代表

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おかじま れな / Rena Okajima

1979年鳥取県生まれ。東京大学理学部天文学科卒業、大学院では天文学専攻で博士号を取得。2008年、米大手金融機関ゴールドマン・サックス証券に入社。2011年、人工衛星から「人工流れ星」を流す事業等を進める宇宙ベンチャー「ALE」を設立、代表に就任。

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