「中学受験の弊害」親が想像もしない数年後の苦難 子どもと親子関係に一生涯の「傷」を残す可能性

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最近の心理学でよく言われるのは、今の子どもは小学4年生頃から(早い子は3年生)思春期前期(あるいは前思春期)に入るということです。これは本格的な思春期・反抗期が始まる前の大切な時期です。

この時期によい親子関係のもとで親への信頼感を育てることで、他者信頼感を持てるようになります。また、自分を肯定してくれる言葉をたくさんもらうことで、自己肯定感を持てるようになります。また、自分が本当にやりたいことを十分やることで、生きる喜びを味わったり、自分がやりたいことを自分で見つけて主体的に取り組む自己実現力が育ったりする時期でもあります。

受験は誰のためのものか

ところが、この大切な時期に、無理な中学受験によって真逆な方向に進んでいる親子がたくさんいます。例えば、次のようなことです。

・親から叱られ続けることで自己肯定感が持てなくなり、自己否定感にとらわれるようになる
・親子関係が悪化することで親への不信感が育ち、それが他者不信感にまで発展する
・自分がやりたいことをやれず、やらされることばかりやっているうちに、自分がやりたいことを自分で見つけて取り組む主体的な自己実現力が持てなくなる
・ギリギリの成績で合格し、入学してからも苦しい状態が続き、重苦しい思春期になってしまう

このようなことにならないためには、無理な中学受験でなく、子どもの人生全体を見据えたうえで持続可能な中学受験を目指してほしいと思います。例えば、次のようなことです。

・無理な目標設定をせず、本人ができる範囲のがんばりで届く目標にする
・遊びも含めて自分がやりたいことをやるなど、子どもらしい健全な生活を楽しみつつ勉強する
・中学受験を通して子どもの自己肯定感が高まるようにする
・中学受験を通して親への信頼が高まり、それが他者信頼感に発展するようにする
・少し余裕を持って臨める学校に進学し、ゆとりのある状態で豊かな思春期を過ごす

親が中学受験に一生懸命になるのは、そもそも子どものためのはずです。

それならば、この時期の子どもにとって一番大切な自己肯定感・他者信頼感・自己実現力などの涵養を犠牲にするような取り組み方はやめたほうがよいと思います。

最後に付言しますと、中学受験への強いモチベーションがない、まだ自己管理力が育っていない、学力が伴っていないなどの状態にある子は、潔く中学受験から撤退し、高校受験で勝負したほうがよい結果が得られる可能性があります。

親野 智可等 教育評論家

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おやの ちから / Chikara Oyano

長年の教師経験をもとにメールマガジン「親力で決まる子供の将来」を発行。読者数は4万5000人を超え、教育系メルマガとして最大規模を誇る。『「自分でグングン伸びる子」が育つ親の習慣』など、ベストセラー多数。人気マンガ「ドラゴン桜」の指南役としても知られる。全国各地の小・中学校、幼稚園・保育園のPTA、市町村の教育講演会でも大人気。ブログ「親力講座」もぞくぞく更新中。講演のお問い合わせとメルマガ登録は公式サイトから。Xで毎日発信中。

 

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