認知件数増いじめ問題解決に「協働」という視点 「構造化」のアプローチで問題の突破口を探る

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谷山:感情論ではなく本来の目的に立ち返って、子どもをどうケアすべきか考えることができるところだと思っています。

私にも子どもがいますが、もし自分の子が学校でいじめられていたら、やっぱりすごく悲しい気持ちになり、法律などを調べて学校に立ち向かおうとするかもしれません。

一方で、学校の先生は数十人の生徒を見なければいけないし、部活の顧問や授業以外の業務など、やることも多くて忙しい現状もある。

本来は、お互いが感情論をぶつけ合うのではなく、保護者と学校が協力し、いじめの芽を見つけて最適なケアを話し合うべきだと思うんです。

お互いに見えていないところがあるとトラブルになりかねないので、見えていない部分でどこがボトルネックになっているのかを見つけることが重要だと思っています。

安部:いじめの問題って、特に感情的になりやすいテーマだと思うんですね。でも、PITさんの活動を通じて構造が可視化されれば、それを引用しながら議論できるようになる。

構造化は、議論を無駄に炎上させず、身のある話し合いにつなげていきやすいというメリットがあると思います。

おふたりが、活動を通じて実現させたいことはありますか。

目標はいじめによる自殺をなくすこと

竹之下:まず目指す目標は、いじめで自殺する子どもの数をゼロにすることです。私個人としては、いじめが社会課題ではなくなることが目標ですね。

人と人がコミュニケーションし、集団を形成していく過程を子どもたちがトライ&エラーで学ぶなかで、さまざまな衝突が発生します。

その衝突の中で、周りが救えずに、苦しみ続ける子が出てしまう。いまのいじめの定義では、衝突自体をすべて「いじめ」と捉えて対応しようとしています。だから、いじめは常に起き続ける。

でも、こうした子を救える仕組みや関係性は必ずあります。「苦しみ続ける子は出ない状態になっている」――そんな確信を関わるみんなが持てるようになれば、いじめは社会課題だと認識されなくなっていくと思うんです。

谷山:私も、いじめによる子どもの自殺は絶対になくさないといけないと強く思います。

竹之下さんと同じで、私も、世の中に「いじめが一切ない状態」はありえないと思うんですね。子どもたち一人ひとりが自分らしく生きることは大事ですが、それぞれが自由や権利を主張すれば当然そこでぶつかったり、トラブルになることもある。他者との関係性の中で学べることも多くあるため、トラブルをなんでもかんでもなくせばよいとは思いません。

しかし、他者の人権を傷つける行為は絶対にしてはいけません。私たち大人は、子どもたち同士のトラブルが深刻化する前にいかにそれを見つけられるか、その体制を整えることが必要だと思います。

安部:過度ないじめは当然許されるものではないけれど、いじめの影響が対処可能な範囲で収まり、かつそれが個々人の学びになれば、むしろその経験は「生きた教材」にもなり得るということですよね。

いじめの芽を早く発見して、高度なファシリテーションができる先生が両者を呼び、改善や修復を促す。

もちろん、生徒・保護者と先生の信頼関係ができていることが前提ですし、「個人における力関係の非対称性をどのようにマネージするとこの関係が健全化するのか」などの訓練や学びが教員側に必要にはなると思いますが、手法論としてはイメージしやすいと思います。

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「リディラバジャーナル」編集部

「リディラバジャーナル」は社会問題の現場を訪れるスタディツアーを提供しているリディラバが2018年1月に立ち上げたウェブメディア。社会問題を見続けてきたリディラバの知見をもとに、問題の背景にある社会構造まで踏み込んだ、特集形式で記事を提供する有料メディアです。

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