無様なアフガン「敗走」でアメリカは何を失うのか 東大・佐橋准教授に聞く内政・米中対立への影響

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――アメリカ軍幹部が「中国の6年以内の台湾侵攻」の可能性を発言したこともあり、今春には台湾危機の世論が高まりました。その後の状況はどうなっていますか。

バイデン政権は、台湾に関してさまざまな発言を行い、中国への抑止につなげようとした。中国がこれを誤認識して強硬な台湾統一の行動に動く可能性は排除できないが、基本的には抑止の力がそうとう効いているようだ。台湾の防空識別圏に中国軍機が侵入する回数も減っている。一方で、専門家の間では、中国は再び経済や政治工作を軸に台湾への統一促進策を強めるとの見立てもある。すぐに危機が生じるというよりは、長期的な備えが必要ということだ。

日本の拠り所は国際的な連合形成だ

――最後にもう一度、アフガンについて。アフガン戦争は、NATO(北大西洋条約機構)がこれまでで唯一、集団的自衛権を発動した事案であり、アフガンの治安維持や民主体制の樹立などは、アメリカだけでなく、日本を含めた国際社会が取り組んだものでした。われわれはアフガン問題をどのように受け止めるべきでしょうか。

今回の一件は、まさに国際平和主義の挫折と言える。アフガン国内のISAF(国際治安支援部隊)はNATOのオペレーションであり、そこに豪州が同盟国に準じて関わった。日本もアフガンの警察官給与支援や海上自衛隊による洋上補給を担い、多数のNGO(非政府組織)関係者も携わった。こうした国際社会による平和構築や国家建設は、これからの世界で引き続き非常に重要な役割を持つ。今回の顛末は冷や水を浴びた格好だが、平和への取り組みを頓挫させてはいけない。

日本は1990年の湾岸戦争時に資金援助だけを行ったことを国際的に強く批判され、それ以降、国際平和主義の道へ本格的に歩み出した。2015年の平和安全法制では、集団的自衛権の行使に関わる日本の存立危機事態ばかりが取り上げられたが、法制のもう1つの重要な柱は、国連など国際社会のオペレーションに加わることだった。

日本ができることという意味でも、ミャンマーや今回のアフガンにおいても、日本政府の難民受け入れ姿勢は相変わらず消極的で、政治家の胆力が問われている。難民受け入れの責務は国民のほうがよほど理解しており、政治がこれについていけない状況にあると感じている。日本が世界の平和にどう関わるのか、今こそ力強いメッセージを出すべき時ではないのか。

野村 明弘 東洋経済 解説部コラムニスト

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のむら あきひろ / Akihiro Nomura

編集局解説部長。日本経済や財政・年金・社会保障、金融政策を中心に担当。業界担当記者としては、通信・ITや自動車、金融などの担当を歴任。経済学や道徳哲学の勉強が好きで、イギリスのケンブリッジ経済学派を中心に古典を読みあさってきた。『週刊東洋経済』編集部時代には「行動経済学」「不確実性の経済学」「ピケティ完全理解」などの特集を執筆した。

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