無様なアフガン「敗走」でアメリカは何を失うのか 東大・佐橋准教授に聞く内政・米中対立への影響
――中国は、タリバンによるアフガン新体制に一定程度の影響力を持とうとしています。米中対立にはどんな影響を与えるのでしょうか。
中国、さらにロシアも国内治安を考えれば、アフガンの安定を欲しているのは変わりない。彼らがアフガンによりコミットすることはありうる。また、すでにアフガンをめぐって、アメリカと中国の接触も始まっているようだ。今後、米中がアフガンの安定化のために何かしらの協力をするという可能性はある。
米中融和への過度な期待は禁物
ただ、逆に言えば、こうした動きを米中の融和材料として期待しすぎないほうがいい。振り返れば2001年にブッシュ(子)政権が発足したとき、米中関係は海南島での軍用機衝突事件があり、非常に険悪だった。しかし、9.11の後、いざ対テロ戦争を始めると、米中は急速に接近した。中国自身もテロの問題を抱えており、両国とも協力が必要だと歩み寄ったからだ。結局、ブッシュ(子)政権時代は、1972年のニクソン訪中以来で最良の米中関係だったと言われている。
今回も同じことが起きるかと言えば、それほどのインパクトは生じないだろう。確かにテロ対策や気候変動問題、グローバルヘルスなどでは、米中の協力は十分にありうる。しかし、いまでは両国の間には容易に解消できない不和がある。アメリカは、異なった世界観を持った中国が国際秩序にとって大きな挑戦になると認識している。中国が市場化改革や政治改革を進め、さらに米欧中心の国際協調に加わるといったかつてのアメリカの期待は消えた。かたや、中国もアメリカに対して自らの優位性を自負するものの、彼らが最も重視する国内統治の安定性にとってアメリカの動きが脅威であるとの認識を強めている。
アフガンをめぐりテロ対策で多少協力しても、それ以上に相互の不信感はあまりに根深い。今後も米中は、お互いに依存を減らしていくように政策を打つだろうし、結果として世界経済、社会活動が緩やかに分断されていく状況はかなりの期間にわたって続くだろう。中国ビジネスに関心の強い層は、何かで歩み寄りがあると「米中対立は終わる」と叫ぶ傾向があるが、米中対立の本質が本当に変わるのかを慎重に見極めなければならない。
また、米中対立をめぐってはよく「日本はアメリカにつくか、中国につくか」という議論に傾きがちだが、われわれがよって立つべきは国際ルールだ。今後は、同じような考えを持つ相手との連合形成がさらに重要になってくるだろう。
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