米vsイラン、ギリギリ「寸止め」で済んだ後始末 反米の興奮が冷めれば、また生活苦が始まる
アメリカとイランが戦争という事態は、ギリギリ「寸止め」で回避されたようだ――。
1月8日、トランプ大統領はホワイトハウスで、「イランによるミサイル攻撃の死傷者はない」として、イランへの軍事攻撃を見送った。「アメリカはソレイマニ氏殺害という勝利を得た。しかし、イランは有効な報復ができない。われわれの勝ち」というのがトランプ氏の見立てだろう。
そもそも今回の衝突のきっかけは、1月3日未明、イラン革命防衛隊の精鋭・コッズ部隊のカセム・ソレイマニ司令官が殺害された事件だった。イラクの首都バクダッド付近の国際空港で、ソレイマニ氏の乗っていた車列が夜間にアメリカ軍によってロケット弾攻撃されたのである。
アメリカのトランプ大統領は、シリア、イラク、アフガニスタンなど“危険で無用な地域”からアメリカ軍を撤退させる方針で、イラク政府にもそうした内容の通告のドラフト(草案)まで作成していた。
が、イラクのシーア派民兵がバクダッドのアメリカ大使館を襲撃する映像を見たことから、「最も極端な選択肢である」(ABCテレビ)、「ソレイマニ氏の暗殺」を決断したという。これでアメリカは撤退方針から一転、中東からしばらく離れなくなった。
ハメネイ師は涙ぐみ、言葉を詰まらせたが…
ソレイマニ氏はイランでは、実績と人望、人気のある司令官で、最高指導者・ハメネイ師の評価も高い、懐刀だ。実質的な地位はイラン大統領の下ぐらいの存在である。暗殺の結果、イランは怒りと憤激の嵐に包まれ、約100万人とも報道された大規模な民衆がソレイマニ氏を悼み、街を埋め尽くして、復讐を叫んだ。
イランの終身の最高指導者であるハメネイ師も、「アメリカへの報復」を誓っている。ソレイマニ氏の葬儀には、ハメネイ師ら指導者の面々が棺に頭を下げ、ハメネイ師は哀悼の演説の最中に涙ぐみ、言葉を詰まらせた。この場面は世界に報道されている。イスラム教シーア派のアヤトラ(最高指導者の称号)がカメラの前で涙ぐみ、言葉を詰まらせるシーンを見せることなど異例だ。
イランの英語紙『テヘランタイムス』はソレイマニ氏について、「セイエド・アリー」という敬称を付けて報道している。セイエドとは預言者ムハンマドの子孫を意味する。
イランの宗教指導者には黒ターバン組と白ターバン組がいるが、イスラム法学者で黒ターバンを着用できるのは、セイエドだけだ。イラン革命の指導者ホメイニ師(故人)やハメネイ師は黒ターバン組。穏健派といわれるロウハニ大統領ですら、それより格下の白ターバン組なのである。
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