米vsイラン、ギリギリ「寸止め」で済んだ後始末

反米の興奮が冷めれば、また生活苦が始まる

イランのシーア派には、イスラム教の殉教者を賛美し、それを見習うべきという伝統がある。イラクのカルバラで殉教したイマーム・フセイン(紀元680年)以来、信念に従う殉教を賛美することは、イランの文化になっている。そうしたイラン国民の感情には、イマーム・フセインとセイエドで、かつ、同じイラクで殺されたソレイマニ氏を重ねる雰囲気があっても、何ら不思議ではない。

ソレイマニ氏殺害の結果、それまであったアメリカの経済制裁による物価高やモノ不足、海外への軍事介入という浪費に反対するイランの反政府運動は消え、代わりに「アメリカに死を」という殉教精神が優勢になった。

ソレイマニ氏には、シリアで反アサド勢力を虐殺したなど非難されることは事実だが、イランからすれば、IS(イスラム国)によるバクダッド攻略を阻止し、シリアをISから守った英雄である。さらにコッズ部隊は直接参戦していないと思われるが、軍事援助・指導でサウジアラビア・UAE(アラブ首長国連邦)連合軍から、イエメンのフーシ派を守った実績もある。

テヘランタイムスはソレイマニ氏を“アンチ・テロ・コマンダー”と賛美。そのソレイマニ氏を殺したアメリカは“悪魔”だというニュアンスがあるわけだ。

イランには国防省が管轄する「正規軍」(陸海空軍)と革命防衛隊省が管轄する「革命防衛隊」という、2つの軍隊が存在する。ハメネイ師が管轄し指導する、革命防衛隊の地位と重要性は高い。戦況によって変化はあるものの、革命防衛隊の人員は約12万5000人。そのうちコッズ部隊の人員は約3万人と推定される。コッズ部隊の人員は戦況によって伸び縮みがある。

さて、これからがアメリカ、イラン双方にとっての本番だ。

国連でイラン外相は「戦争を求めていない」

アメリカのイラク撤退という流れを信じ、ソレイマニ氏殺害を想定せず、無警戒だったのがイランである。ソレイマニ氏殺害により、国内で盛り上がった反政府運動が沈静化し、アメリカに対する反感で国民がまとまったことはむしろプラスだろう。しかし、アメリカにかかされた恥を、戦争に至らぬ範囲で払拭し、体制を維持する困難が待ち構えている。

アメリカとイランが真っ向勝負に出て、イランが勝つとは誰も思わないはず。ロシアや中国にしても、国益を捨ててまでイランにつく、とは考えにくい。

“無難な”方法は、レバノンのシーア派武装政党・ヒズボラの指導者が語った、「レバノン、シリア、イラクでアメリカ軍人を殺害する。民間人には手を出さない」ことかもしれない。だが報復の「試し打ち」は喪が明けた1月7日に実行。早くもイランから、イラク西部にあるアメリカのアル・アサド空軍基地に向けて、15発のミサイルが撃ち込まれた。

イラン国営テレビは「アメリカ軍人が80人死亡」と戦果を伝えるが、アメリカ側の報道では軍人の死傷者は確認されていない。この事件に関して、イランのザリフ外相は国連に、「イランは戦争を求めていない」と通告している。

この時期にソレイマニ氏を殺害した動機の1つとしては、トランプ大統領の連邦議会下院の弾劾裁判をそらし、3月2日投票が予定される3回目のイスラエル選挙でかねて反イランを唱えているネタニヤフ首相を支援するため、と語られることが多い。

だが、トランプ大統領のいちばんの関心を推測すると、11月3日にも予定される大統領選挙での再選である。そのためには株価の高値維持が必要だ。イランと本格的な戦争が始まると、株価に影響を与える。再選への前提条件が崩れることを恐れたのだろう。

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