哲学者が語る「人がサイボーグになる」の深い意義 「ゼロ地点に立ち返る」ネオ・ヒューマンの思考

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たとえば身近なところでいうと、かつては日本社会のルールだった「終身雇用」が崩壊しつつあり、新たに「実力に応じた待遇」というルールが日本を覆おうとしています。

もちろん、これをポジティブに評価することもできます。しかし、個々の労働者にかかる「生産性向上」の圧力が過度に高まっていると考える人もいるでしょう。

ここで言いたいのは、どちらが正しいかということではありません。ただ、「それが社会というものだ」と言いながら、積極的には歓迎しないものを仕方なく受け入れなければならないと思っている人がいるとすれば、「まったくそんなことはない」と僕は思います。

僕は2019年に上梓した『資本主義に出口はあるか』で、以下のように書きました。

『資本主義に出口はあるか』(書影をクリックすると、アマゾンのサイトにジャンプします)

「われわれはすでに長らく『この社会』に生きてきました。これ以外の社会を知る人も少なくなっています。しかし、学者としてそうした研究を続けている人間はまだ生き残っています。既存の価値観から離れてゼロから社会を見直す『哲学者』です」

自分たちを縛っているルールを疑って、「みんなこのルールを守っているけど、本当にそれでいいの? ゼロ地点に立ち返って新しいルールを作ろう」と提起する。

哲学とは元来このようなものです。いま「この社会」では、哲学は「誰々が言った何とか説を知っているかどうか」が問われる「教養」のイメージが強いかもしれませんが、それは本来の哲学ではない。少なくとも僕はそう考えています。

科学者と哲学者は、遠いようで近い存在

ピーターさんは、自分のことを「科学者」と定義していますので、もしかしたら「哲学者」と言われることには納得されないかもしれません。

しかし、本質的には哲学者と科学者は近しいものです。トーマス・クーンという科学哲学者がいました。「パラダイムチェンジ」という言葉を作った人ですが、彼は、科学には2種類あると言います。

1つは、ノーマルサイエンスといわれる通常科学。特定のパラダイムを前提にして、その中で、まだ明らかになっていない、欠けているパズルのピースをみんなで探して埋めていくというものです。

しかし、これではパラダイム自体を変えていくことができません。クーンは、パラダイムチェンジを起こすためには、科学革命が起きる必要があると言いました。

ピーターさんは、その科学革命を起こす、つまりパラダイムチェンジを起こすという意味での科学者なのだと思いますね。これは、哲学者がやっていることと非常に近いものです。

パラダイムを変えるのは難しいことです。ただ、潜在的には、誰にでもできることではあります。つまり、自分がそうである状態を、一度脱げばよいのですから。なにか特別なことが必要なわけではなく、自分の中でそれができればよいはずなのです。

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