クック体制でアップルの均衡崩れつつある 『沈みゆく帝国』著者、ケイン岩谷氏に聞く(後編)
――書籍全体を通して、クックに辛辣な批評をしている印象を受けます。本書執筆に際し、クックの実家がある米国南部アラバマ州ロバーツデールにも赴いていますが、彼にどういう印象を抱いていますか。
決してクックに対し、厳しく書いたつもりはない。クックの故郷に行ってわかったことは、米国南部生まれとしては平凡な育ち方をしており、人一倍の努力家で秀才でもあるということ。負けず嫌いでもある。なぜ故郷まで行ったかというと、誰も彼のことを何も知らないからだ。クックは部下からは厳しい上司と見られていて、なおかつすごくプライベートな人間。どんなに近くで働いても彼のことを知っている人はおらず、彼がどんな人と付き合っているのかも知らない。
アップルの強みは会社とユーザーの間に感情的なつながりがあることだった。しかし、自分の周りに対しても距離感のある人間が、知りもしないユーザーとコネクションを作ることができるだろうか。つまり、アップルが前ほど面白くないと言われ始めている理由の一つは、クック自身が自分を見せず、ユーザーと感情的なコネクションを作っていないからではないか。ユーザーとのコネクションはCEOが全てを作らなければいけないわけではない。しかし、ジョブズのつながりが強かっただけに、クックになってなくなったと感じられやすい。
クックは優秀だが、ジョブズと正反対なのは確かだ。それによって、アップルが今まで保っていた均衡が崩れていくと観察している。
――岩谷さんご自身のことを聞かせてください。ウォール・ストリート・ジャーナルを退職したのはいつですか?
2011年秋に書籍執筆に専念するため1年間休職し、その1年後に退職した。休職した当時はとりあえず本を終わらせることを考えていたので、1年後に退職するかどうかは考えていなかった。休みを取って旅行をして、「さあ書籍に取りかかろう」という帰りの空港にいるときにジョブズの訃報を聞いた。
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