中国が香港を併合したくてもできない決定的理由 弾圧を強化すれば経済面で大きな打撃を受ける

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香港の経済規模は、1997年には中国大陸の18.4%もあった。この比率は、2018年には、2.7%に低下している。

しかし、表現の自由や、独立した司法が保証する国際金融センターとしての地位は、中国の他の都市によって代替することはできない。

香港には、中国内外の金融・ビジネス関係者が公平で非政治的な取引を行うことのできる欧米型の法・規制制度がある。法の支配、有能な規制当局、低い税率、自由な資本移動、英語の使用といった面で、香港は中国本土のライバル都市と比べて大きな違いがある。

上海市場と深圳市場は、以前に比べれば利用しやすい市場になったと言われる。しかし、投資家は、香港における法的保護のほうが依然望ましいと考える。このため、上海市場でさえ、近い将来に香港の役割を果たすことはできないだろうと言われる。

中国軍が乗り出せば香港の地位は傷つき、中国にも打撃

こうした仕組みを運営できるのは、「一国二制度」という独特の統治制度があるためだ。この制度の下で、香港には中国本土にはない表現の自由や独立的な司法などの自由が保障されてきた。

これが保障されないことになれば、「安定した国際金融センター」「世界から中国本土への投資の玄関口」という香港の地位は、深刻なダメージを受ける。

貿易面でもそうだ。アメリカが香港に対して「香港政策法」で特別扱いをしてきたのは、香港が中国政府から独立していると判断してきたためだ。それが保障されなければ、アメリカが同法を修正することもありうる。

トランプ政権時代の2020年5月、ポンペオ国務長官(当時)は、香港がもはや中国本土からの自治を維持していないと判断していると議会に伝えた。そして、ドナルド・トランプ前アメリカ大統領は、2020年7月、香港への優遇措置を撤廃する大統領令に署名した。

一部のアメリカ上院議員は、「香港政策法」を修正し、香港を中国本土と別の関税エリアとする扱いを変更する意向を示唆している。

中国政府が今後も香港で強権的な弾圧を続けるなら、海外の投資家は、香港を捨て、シンガポールなどの信頼度が高い金融センターに取引を移す可能性がある。

そうしたことが起きれば、中国経済に対して、きわめて大きな打撃となるだろう。

野口 悠紀雄 一橋大学名誉教授

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のぐち ゆきお / Yukio Noguchi

1940年、東京に生まれる。 1963年、東京大学工学部卒業。 1964年、大蔵省入省。 1972年、エール大学Ph.D.(経済学博士号)を取得。 一橋大学教授、東京大学教授(先端経済工学研究センター長)、スタンフォード大学客員教授、早稲田大学大学院ファイナンス研究科教授などを経て、一橋大学名誉教授。専門は日本経済論。『中国が世界を攪乱する』(東洋経済新報社 )、『書くことについて』(角川新書)、『リープフロッグ』逆転勝ちの経済学(文春新書)など著書多数。

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