香港は、中国経済にとってきわめて重要な役割を果たしている。香港経由の迂回輸出とすると、関税を回避できる場合がある。さらに重要なのは、金融面での役割だ。これまで、中国企業のIPOの大半は香港市場で行われた。アメリカ市場でのIPOが規制されると、香港の役割はますます強まるだろう。
中国が「一国二制度」を踏みにじれば、こうしたメリットは失われる。それは中国経済に深刻な打撃を与えるだろう。
昨今の経済現象を鮮やかに斬り、矛盾を指摘し、人々が信じて疑わない「通説」を粉砕する──。野口悠紀雄氏による連載第50回。
中国は、香港の民主化運動の弾圧を強めている。
6月24日、香港最大の民主派新聞「蘋果日報(アップルデイリー)」が廃刊となった。
中国当局による香港民主化運動の弾圧がついにここまで来たかと、全世界に衝撃を与えた。
1年前の2020年6月、中国の全国人民代表大会常務委員会は、香港での反政府的な動きを取り締まるための「香港国家安全維持法案」を、全会一致で可決した。
これは、「一国二制度」を踏みにじるものであり、中国はいずれ香港を併合してしまうのではないかとの懸念が広がった。
その後の動きを見ると、警察は同法を使って、活動家や民主派の元立法会議員などを相次ぎ逮捕し、収監した。そして、アップルデイリー廃刊事件だ。1年前の懸念は的中しつつあるように思われる。
では、中国共産党は、このまま、まっしぐらに香港併合に向けて進むのだろうか?
経済活動の側面から見ると、それはきわめて難しいと考えられる。
なぜなら、香港は中国経済のために不可欠な役割を果たしており、併合してしまえば、その役割を果たせなくなるからだ。
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