(第47回)【2011年度新卒採用戦線総括】未内定学生の大量発生、半数以上の大学で高校補習…

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●隠されていた大学の実態が来年度から公開される

 大学の質が劣化した原因をいくつか上げて見よう。
 まず、AO入試、推薦入試などの横行だ。大学入学者のうち、正当な試験で選抜されているのは2割程度、8割は名前を書きさえすれば入学できると言われている。つまり、大学全入時代が質を劣化させている。
 学生の数も多すぎる。18歳人口は1990年代初めに200万人台に達した後は減少に転じ、現在は120万人台になっている。しかし大学進学率は5割を超し、大学生の数は増えている。その受け皿になる大学について、旧文部省は大学新設を大盤振る舞いで認め、伝統校も定員を大幅に増やした。

 これらの問題はこれまでも指摘されてきたが、具体的に論じようとすると基礎データがあいまいだった。大学が情報を公開しておらず、実態がよく見えなかったのだ。
 多くの大学は就職率の高さで生徒や親を勧誘しているが、就職率は「就職希望の学生数」という分母を変えれば簡単に操作できる。また、中途退学者の数は隠蔽されていて外部からよくわからない。

 文部科学省もはっきりわからない実態にいらだったのか、画期的な決定を下した。文部科学相の諮問機関「中央教育審議会」が2011年4月から、入学者数や就職者数の情報公開を大学や短大、大学院、高等専門学校に義務づけたのだ。「就職率」のようなあいまいな数字ではなく、実数の公開は初めてのことだ。
 中位校、下位校の多くは困っているだろうが、公開せざるをえない。ただし今回の義務づけによって、大学のあり方が改善されるかというとそうではあるまい。いっそうの就職予備校化が進むのだと思う。

 実は文科省自身も就職予備校化を推進している。文部科学省は2011年度から大学や短大生の職業観育成や社会的自立についての教育を充実させるという目的で、大学の教育課程に職業指導(キャリアガイダンス)を単位化することを決めた。大学の9割がキャリア教育を実施しているが、これを明確に義務化するのだ。伝統的な大学のあり方からすればやや違和感があるが、若者が「働く」意味を理解することには意義があるだろう。

 今回は、2010年卒の採用戦線を厚労省や文科省の施策を点検しつつ振り返ってみた。かなり大きな変異が起こり、大学は来年度に大規模な情報公開を迫られる。
 次回は、2011年卒採用戦線での学生と企業の行動を、調査データを基に紹介したい。
HRプロ株式会社(旧社名:採用プロドットコム)
(本社:東京千代田区、代表取締役:寺澤康介)
採用担当者、教育・研修担当者をはじめとしたHR担当者のための専門サイト「プロ.com」シリーズを運営。新卒/中途採用、教育・研修、労務、人事戦略などの業務に役立つニュース、ノウハウ、サービス情報、セミナー情報を提供している。HR担当者向けのセミナーも東京・大阪で開催している。
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