資生堂「高級品もEC販売」へ猪突猛進に相次ぐ酷評 イオン通販で高級ブランド販売を始めたが・・・
あまり知られていないが、クレ・ド・ポー ボーテのEC販売は一度頓挫した過去を持つ。資生堂は2019年、クレ・ド・ポー ボーテの公式ECサイトである「オンラインブティック」を開設、消費者へのEC直販を開始した。
しかし、同ブランドのEC直販に化粧品専門店のオーナーらが猛反発、オンラインブティックでの販売は開始から2年足らずの2021年6月末に休止となった。
専門店オーナーが反発した理由は、資生堂の直販により顧客を奪われるとの危機感が大きかったためとみられるが、ブランド価値の毀損に対する懸念もあった。
この販売休止から1カ月も経たずに始まったのが、イオンのECでの販売だ。
資生堂は同時期に百貨店ECなどでも販売を始めたが、ある社員は「イオンなどのGMSはポイント還元で実質的な値引きを行う。クレ・ド・ポー ボーテも値引き販売に巻きこまれてしまうのでは」と懸念する。
このような周囲の声をどう受け止めるのか。東洋経済は資生堂に見解を尋ねたが、締め切りまでに回答はなかった。
EC傾斜の背景に国内事業の停滞も
同社が「悪手」とまで酷評される施策を敢行した理由の1つとして考えられるのが、国内事業の停滞だ。
国内事業はここ数年、インバウンド(訪日外国人)需要の追い風を受けて業績を拡大させていた。その規模は非開示だが、「国内売上高のうち1000億円ほどがインバウンドによるものだったのではないか」と同社のOB社員は推測する。この見方に立てば、国内売上高の2割以上をインバウンドで稼いでいた計算になる。
それだけにコロナが直撃した2020年度の落ち込みは厳しかった。資生堂の2020年12月期の国内売上高は3030億円と、前期比で29.7%も減少。化粧品メーカー2位のコーセーの2021年3月期の国内売上高は同24.8%減と、資生堂より傷が浅かった。
資生堂は2023年12月期に業績を復活させ、営業利益率15%(2020年12月期は1.6%)を目指すとしている。利益率向上のために期待を寄せるのがECだ。
美容部員の接客を介する必要のないECでは、人件費を省ける。クレ・ド・ポー ボーテのような高級ブランドのEC販売を拡大できれば、利益率が飛躍的に向上することは間違いない。複数の資生堂関係者によると、水面下ではイトーヨーカ堂との間でも同ブランドのEC販売の交渉をしているもようだ。
しかし、EC傾斜をなりふり構わず強めれば、ブランドイメージ悪化の懸念や、化粧品専門店との軋轢は深まるばかり。両刃の剣になりかねない。
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