若者が活躍できる社会へ、教育・人事改革は急務だ コロナ禍は変われない日本を変えるチャンスだ

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企業経営者は、正社員として仕事を続けたい人に、ライフイベントにあわせてテレワークを活用して柔軟に無理なく長く働き続けられるような労働環境を用意することが求められる。昭和時代の同質的経営から脱却し、若者や女性の育成機会を思い切って増やし、処遇にも配慮して、中核層に多様性を取り入れる必要がある。

第3に、日本社会に根強い性別役割分担意識を変える必要がある。コロナを機に変わる兆しのあるワークライフバランスの意識を定着させ、6月に成立した、企業による男性育休周知、意向確認義務付けなどの改正育休法を社会全体の意識改革につなげるべきだ。

日本とスウェーデンの比較調査(2015年)によれば、就学前の子どもの育児の担い手は、スウェーデンでは94%が夫婦両方、日本は主に妻が担うが63.5%である。子どもをとても育てやすいと答えた割合はスウェーデンでは8割、日本は約1割であった。また性別役割分担の考えにスウェーデンは8割が反対なのに対し、日本は男女ともに半分以上が賛成である。

スウェーデンのジェンダーギャップは小さいのに出生率が高いのは、長年かけて国として政策努力を重ね、元々社会にあった性別役割分担意識を変化させ、育児支援も充実させてきたからであり、日本が学ぶべき点がある。

多様性こそ価値を生む時代

コロナ前も、少子化の反転、付加価値生産性の向上、東京一極集中是正等の重要性は再三指摘され対策も打たれたが、成果は上がっていなかった。コロナ下での人々の気づきや行動変化を、これらを解決する契機とすべきだ。

「人的資本」は日本で唯一ともいえる貴重な資源である。今回のコラムでは、多くの人が潜在能力を発揮できる社会に転換する努力の重要性を指摘した。今後は、グリーン化への対応、流動的な国際情勢、加速する技術革新等、社会の変動や不確実性が拡大し、イノベーションやレジリエンスがいっそう求められる。日本を多様な人材が活躍できる社会とし、柔軟な発想でさまざまな新しい課題に挑戦していくことが欠かせない。

7月26日のコラム『日本とコロナ、改革すべきは医療制度と財政政策』でみた医療提供体制や深刻化した財政など、克服すべき課題は山積している。政府、自治体のみならず、企業、教育機関も含めて社会全体が、現状を維持した場合の日本の未来について危機感を共有し、一人ひとりが豊かさを感じ希望の持てる社会に向けて、改革を進める必要がある。

翁 百合 日本総合研究所理事長/ NIRA総合研究開発機構理事

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おきな ゆり / Yuri Okina

京都大学博士(経済学)。1984年日本銀行入行、1992年 日本総合研究所に移り、 2018年から理事長。この間、慶應義塾大学特別招聘教授、株式会社産業再生機構非常勤取締役兼産業再生委員、規制改革会議・健康医療ワーキンググループ座長 などを歴任。現在、未来投資会議・構造改革徹底推進会合「健康・医療・介護」会合会長、金融審議会委員 、総合研究開発機構(NIRA)理事 などを務める。内閣府「選択する未来2.0」懇談会座長。著書に『金融危機とプルーデンス政策』(日本経済新聞出版社)、『不安定化する国際金融システム』(NTT出版)、『国民視点の医療改革』(慶応義塾大学出版会)など。

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