東大教授が教える「世界が求める頭の良さ」の定義 ネオヒューマンが示す「汎用的」な問題解決力

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オリンピック競技になったスケボーやスノーボードの世界では、優秀な若者がたくさん出てきました。

彼らは、ファッションも含めて、そんなに行儀のいい若者たちではないケースもあり、それが時に賛否両論になったりします。けれどそれは、「真面目にやりなさい」と言われて従ったのではなく、自分のやりたいことを徹底的に追求した、その結果なんですよ。それが大事です。

そこには、強さがあります。真面目な体制派ではなく、自分の世界観を持った若者たちが登場し、世界的な能力を持っている。これは日本にとっての救いだと思いますね。

1つの分野で世界レベルまで上り詰めるような若者たちは、他の分野に目を向けたら、ピーターさんのようにすごい成果を出すかもしれません。これは先ほどの「推論エンジン」の話に通じますね。1つのことで世界レベルに上り詰めたその力は、データベースを変えれば、他のことにいくらでも応用が利くはずなんです。

本当は、可能性はみんなゼロではないわけです。もともと何も持っていないから成功できないのではなく、生き方次第なのですから。言い換えれば、みんながネオ・ヒューマンになれるポテンシャルを持っているということでもありますね。

「専門バカ」には身につけられない宇宙レベルの視点

いま、世界ではそういった「頭の良さ」が求められています。なぜなら、先ほども言ったとおり、人類が直面している課題の多くは、1つの分野で解決可能なものではないからです。

たとえば環境問題。現状、地球人は、地球上のリソースを「ここまでは使ってもいい」という適切なラインの1.69倍まで消費していると考えられています。今後、途上国がさらに発展すれば、たちまち2倍、3倍と消費しはじめ、2040年には地球はもたなくなるとも言われています。

つまり、今のような生活はできなくなり、エネルギーや食糧が、採れるところで採れなくなる。地球温暖化が進み、日本で熱帯病が流行るということも起きるでしょうし、「コロナはまだ平和だったね」という時代が来るかもしれません。

僕は、こういった問題については、地球をひとつの球体として眺められるほどの高さ、つまり、宇宙目線でこの世界を見ることが必要だと考えています。それによって、人間は新しい哲学の地平を見ることができるのです。

こういった視点は、「専門バカ」では得られません。やはり、複数の分野を横断できる「推論エンジン」を搭載した人が不可欠です。

かなり楽観的かもしれませんが、本書を読んでいて、ピーターさんのような推論エンジンを持った人物、複数の分野を混ぜ合わせ解決できる力を持った人が、この地球の重大問題に対する解を出さないかな、なんてことも思いました。

でも、本音を言うとちょっと悔しいですよ。ピーターさんの強さと才能、解を見出せる頭の良さ、闘うことへの思いの強さを羨ましく思います。苦境自体を喜んで、ややこしくて解けそうもない問題を解くこと自体を面白がるというのは、きわめて科学者の姿勢。闘うこと自体がクセになっているんですね。

何度も言いますが、ほんと、ピーターさんは悔しいくらいにめちゃめちゃ頭がいい! 『ネオ・ヒューマン』は、相当にいろんな面から考えさせられるものがあり、非常に面白い1冊でした。

(構成:泉美木蘭)

中須賀 真一 東京大学航空宇宙工学専攻教授

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なかすか しんいち / Shinichi Nakasuka

専門分野は宇宙工学と知能工学。世界初の1kg衛星をはじめ13機の超小型衛星の打ち上げに成功している。1961年、大阪府生まれ。83年に東京大学工学部航空学科卒業。88年に同大学院博士課程修了。その後、コンピュータメーカーに就職し、人工知能や自動化工場に関する研究を行う。90年に東京大学に戻り、航空学科講師、同大学先端科学技術研究センター助教授、アメリカでの客員研究員を経て2004年に現職。

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