菅政権は末期に、酒取引停止問題で露呈した限界 首相の指導力が急低下、募る衆院選への不安
コロナ感染抑止策の一環として政府が画策した酒取引停止要請が全面撤回を余儀なくされた。関係する金融機関や酒事業者団体の反発に加え、与党内からも不満が噴出したからだ。
東京でのコロナ感染再拡大による東京五輪・パラリンピックの無観客開催などで苦境が続く菅義偉首相の指導力は一段と低下。頼みのワクチン接種の混乱による内閣支持率の低迷もあって、与党内には次期衆院選への不安も拡大している。
「西村発言」に与野党から批判の声
今回のドタバタ劇の主役を演じたのは、コロナ担当の西村康稔経済再生相だ。東京への4度目の緊急事態宣言発令を決めた7月8日の政府対策本部後の記者会見で、酒類提供停止の要請を拒む飲食店の情報を取引金融機関に流し、順守を働き掛けてもらう方針を表明した。
西村氏の発言は、政府がコロナ感染拡大の主犯と位置付ける飲酒を制限するための窮余の一策ともみえた。しかし、取引関係で強い立場にある金融機関を政府が動かすことは、金融機関にとって優越的地位の乱用との批判を招きかねない。野党からは「憲法違反」との声があがる一方、酒事業団体を有力な支持母体とする自民党からも不満が噴出した。
西村氏は9日に金融機関への要請は撤回したが、酒類販売事業者に求めた酒の提供を続ける飲食店との取引停止要請については続ける意向を表明。しかし、自民党が政府に強い不満を伝えたことから、こちらも13日に撤回した。
さらに政府は、酒類販売事業者への支援金をめぐり、給付要件として「酒類提供停止に応じない飲食店との取引停止」を求めていた6月11日付の都道府県向け文書も14日夜に廃止すると発表。まさに、「西村発言で始まった朝令暮改の連鎖で、菅内閣の統治能力や判断力の欠如を露呈」(立憲民主幹部)する結果となった。
問題は、不当な圧力ともみられる取引停止要請が西村氏のスタンドプレーだったのかという疑問だ。主要野党による調査の結果、内閣官房コロナ対策室と国税庁が連名で、酒造メーカーや販売団体に飲食店への酒類取引停止を求める文書を8日付で送付していたことが判明した。
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