「世界遺産=観光地」として見る人の大いなる誤解 本来の目的は「遺跡や自然環境を保護する」こと

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「世界遺産」にどのような印象を持っていますか?(写真:Buuchi/PIXTA)
「世界遺産」という言葉は知らない人がいないほどの馴染み深い存在になりました。一般的に日本では地域の誉れとして観光振興のように扱われていますが、世界遺産の歴史を辿ると少し違う面が見えてきます。そもそも世界遺産とはなにか――。井出明氏の新著『悲劇の世界遺産』より一部抜粋し再構成のうえそのヒントを探ります。

世界遺産の本当の価値

「世界遺産」という言葉を聞いたときに、日本の人々はどういったイメージをいだくであろうか。大多数は、「地域の誉れ」という感じで、ポジティブな印象を持つであろう。

しかし、世界遺産の概念は光の要素だけでできているわけではなく、多面的な様相を持っている。もともと、1978年に行われた初回の世界遺産登録に関してみると、文化遺産について8カ所、自然遺産について4カ所が入ったわけだが、文化遺産のうち1カ所は西アフリカのゴレ島を含んでいた。

この島は、元より奴隷売買の場所として知られ、そこには人類の悲劇の記憶が湛えられている。そして、翌年の第二次の世界遺産登録では早くもアウシュビッツ強制収容所が入ってきている。

要するに、世界遺産という言葉を聞くと、日本人は一般的に何か地域にとって誇らしい『光』を感じると思うが、この言葉には本来、光と影の両義性が含まれているのである。そもそも、『遺産』という言葉の本来的意味を考えても、必ずしも親からの相続がプラスになるとは限らない。

それゆえ、欧米ではとくに『負の世界遺産』という概念がなく、一般的に悲劇性を持った遺構であっても、世界遺産の対象として理解されていることには留意していただきたい。

さて通常、「世界遺産」と言えば、「世界文化遺産」と「世界自然遺産」の2つを指す。「文化遺産」という言葉でくくられる対象は、一般に建造物やその遺構をさすが、ユネスコの世界遺産の対象が拡大されるにつれて、現在は「景観」なども世界遺産登録の対象となっている。

「自然遺産」は、基本的に字義どおりに取っていただき、後世に残すべき美しい自然環境を想定している。まれに中国の黄山やペルーのマチュ・ピチュなど、文化遺産および自然遺産の両方になる資質を備えた対象は「複合遺産」として登録されることがあるが、あまり例は多くなく、日本からは一件もない。

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