日本は創薬国であるにもかかわらずワクチンが作れなかった理由は主に3つある。
第1に、ワクチン生産は製薬会社にとってはリスクが大きく、仮に開発しても感染が収まれば売り上げにつながらないため、ビジネスとして注力しにくいことが挙げられる。その結果、ワクチン開発のための人材も十分に育たず、開発環境や設備も不十分であった。一言でいえば日本は「ワクチン発展途上国」であった。
第2に、子宮頸がん(HPV)ワクチンをめぐる訴訟など、ワクチンの副反応の訴訟リスクがあるだけでなく、薬害エイズ問題などによって行政の側も薬事承認のプロセスが厳格になり、危機時に柔軟に対応することが難しいという背景もあった。
第3に、皮肉なことだが新型コロナの感染拡大が「結果オーライ」であったため、治験を行うのに必要な患者を集めることが難しく、開発が遅れるなかで外国で有効なワクチンが開発されたため、さらに治験が難しくなった、という背景がある。
ワクチン承認をめぐる「泥縄」
ワクチンを国内で開発することができなければ、外国から調達するしかない。しかし、その前にワクチンを薬事承認しなければ、安全に使うことはできない。欧米企業からワクチンを輸入し、接種につなげていくためにも迅速な承認が必要だったが、ここでも「泥縄式」の対応となった。
アメリカでは食品医薬品局(FDA)が緊急事態においては緊急使用許可(EUA)を出すことが可能となっており、未承認であってもパンデミックの最中は使用することができるという制度を取っている。またEUでも欧州委員会が条件付き販売承認を出し、各国の衛生当局が緊急使用承認を出している。これらは安全性や有効性を確認したうえで、残余リスクがあるとしても、接種を進めることの便益を優先する制度である。
しかし、日本にはこうした緊急使用の制度はなく、さらに言えば、国際治験にも参加していなかったため、ファイザー社が日本で2020年10月に申請した後、日本人160人への治験を課したうえで、「特例承認」という「泥縄式」の対応で丸2カ月遅れの2021年2月に許可を出したのである。
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