「リベラル」こそ「ナショナリスト」であるべき理由 日本に「民主主義」を取り戻すために必要なこと

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これはまぎれもない「ナショナリズム」なのである。

「保守」の問い直しが始まった

一般的に、ナショナリズムは「保守」の思想であり、「リベラル」は普遍主義の立場からそれを批判する、と考えられている。

しかし、いまやこの構図は逆転している。「東京五輪問題」がいよいよ白日の下にさらしたのは、このことにほかならない。

繰り返すが、いまやわが国にあっては、「保守」のほうが、国民の生命を犠牲にしてでもIOCのような「グローバル」な組織の命令には服従しなければならないと主張し、むしろ「リベラル」のほうが、「国家主権」を発動して国民の生命を守れと主張しているのだ。

「保守」がグローバリズムで、「リベラル」がナショナリズムなのである。

この思想的混乱をどう考えればよいのか?

そこで重要な知見を提供してくれる一書が、アメリカで2018年に刊行されて話題になっているというヨラム・ハゾニー著『ナショナリズムの美徳』である。

日本の「保守/リベラル」をめぐる思想の混乱は、もとをたどれば、戦後日本の思想が圧倒的な影響をこうむってきたアメリカに起因する。

アメリカでも、かねて、「保守」(共和党)のほうが、新自由主義(市場原理主義)に基づくグローバル経済の推進や、自由と民主主義という普遍的(と称する)理念に基づく国際政治への積極的な介入、つまりは政治・経済両面でのグローバリズムを理念として掲げていた。他方、「リベラル」(民主党)は、経済的格差の是正や福祉の向上を主張してきた。

ただし、アメリカの場合、そもそも自由と民主主義、そしてその世界への拡大・普及こそがアメリカの「伝統」であると理解されてきたため、「保守」がそれらの理念を掲げてグローバリズムを推進するのは、あながち不自然なことでもなかった。

不自然なのは、日本の「保守」が、この「アメリカの保守」と理念を共有することをもって、みずからを「保守」と自認してきたことだ。「保守」とはそもそも、自国の歴史や伝統に重きを置くことであるにもかかわらず、である。

ところが、この「アメリカの保守」が、近年、問い直されている。この問い直しにおいて、きわめて大きな影響力をもったのが『ナショナリズムの美徳』である。

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