イスラエルの哲学者が「トランプ」を動かした訳 米国保守主義再編や欧州ポピュリズムにも影響

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トランプ政権の外交基盤となり大きな影響を与えたといわれるハゾニー氏の論考を、どう読み解けばいいのか解説します(写真:Elijah Nouvelage/Bloomberg)
新型コロナウイルスは、グローバリズムがもたらす「負の側面」を浮き彫りにし、「国家」の役割が再注目されるきっかけにもなっている。いわば「ポスト・グローバル化」へ向かうこのような時代の転換期にあって、国民国家、ナショナリズムを根源的に捉えなおす書、『ナショナリズムの美徳』がこのほど上梓された。
本書の著者でイスラエルの政治哲学者、ヨラム・ハゾニー氏は、自由と民主主義を守るのは国民国家であるとして、誤解されがちなナショナリズムの価値観を問い直している。その一方で、グローバリズムのパラダイムは、専制や帝国主義と同じだと警鐘を鳴らしている。
トランプ政権の外交基盤となり、アメリカ保守主義再編や欧州ポピュリズムにも大きな影響を与えたといわれるハゾニー氏の論考。われわれはどのように読み解けばいいのか。政治学者の施光恒氏が解説する。

新しい保守主義のマニフェスト

本書『ナショナリズムの美徳』は、グローバル化の必要性が叫ばれ続け、また同時にグローバル化が各国で格差拡大や国民の分断などさまざまな問題を引き起こしている現代世界において必読の書物である。

『ナショナリズムの美徳』(書影をクリックすると、アマゾンのサイトへジャンプします)

著者のヨラム・ハゾニー氏はイスラエルの政治哲学者、聖書研究家である。1964年にイスラエルで生まれたが、アメリカで育ち、プリンストン大学を卒業し、ラトガーズ大学で政治哲学の博士号を得ている。

本書は、現代のアメリカの保守思想に大きな影響を与えている。

たとえば、トランプ政権の国家安全保障会議(NSC)の報道官を務めたマイケル・アントン氏は、2019年4月に「トランプ・ドクトリン─政権内部の人間が大統領の外交政策を説明する」(“The Trump Doctrine: An Insider Explains the President’s Foreign Policy”)という論説を外交誌『フォーリン・ポリシー』に発表したが、そのなかでトランプ政権の外交政策の基盤とされ、再三、引用されたのが本書だった。

また、政治ジャーナリストのダニエル・ルーバン氏も、ネオコン(新保守主義)や新自由主義に代わる新しい保守主義の潮流の中心的人物として、ハゾニー氏を挙げ、本書を「右派知識人のマニフェスト」の位置にあるものだと論じている(“The Man Behind National Conservatism,” The New Republic, July 26, 2019)。

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