イスラエルの哲学者が「トランプ」を動かした訳

米国保守主義再編や欧州ポピュリズムにも影響

ハゾニー氏は、ネイションは、家族や氏族、部族と同様、そうした性格をもつという。ネイションを構成する人々は相互に忠誠心や連帯意識をもつ。連帯意識があるゆえ、防衛や福祉政策など共同の事業も行いやすい。

国民国家の利点を説明する際、ハゾニー氏は、一方に「無政府状態」、他方に「帝国」を置く。そのうえで、その中間に位置する国民国家こそ、平和と安全を実現し、人々を最も自由かつ幸福にできると論じる。

ナショナリストへの憎悪と国民の分断

第3部「反ナショナリズムと憎悪」も興味深い。ナショナリズムは憎悪を生み出すと非難されることが多い。だが、ハゾニー氏は、「帝国」思想も負けず劣らず憎悪を生み出すと指摘する。「帝国」のビジョンに従わず、「多数の国々からなる世界」という理想を手放さない者を野蛮で後ろ向きの者と蔑み、憎悪するというのだ。

この憎悪は、EUや国際機関などを信奉する地球市民的意識をもったエリート層が、国民国家という枠組み、あるいは自国の文化や言語への愛着やこだわりを捨てない庶民層をバカにするといった形で現れることが多い。

たとえば、英国のジャーナリストのデイヴィッド・グッドハート氏は、現代の先進国で見られる深刻な国民の分断現象を、高学歴・高収入で地球市民的意識をもち、大都市に暮らす「エニウェア族」と、学歴や収入がさほど高くなく、国や地域社会に強い愛着とこだわりをもつ「サムウェア族」の対立として描き出す(D. Goodhart, The Road to Somewhere: The New Tribes Shaping British Politics, Penguin, 2017)。そして、「エニウェア族」が「サムウェア族」を見下す傾向を問題視している。

実際、こうした国民の分断は、現代世界のさまざまなところで見出すことができる。たとえば、英国のEU離脱の国民投票の直後、大手マスコミの多くは、EU離脱に賛成した人々をひどく罵った。

また、昨年の米大統領選やその後の報道を見る限り、トランプ支持者とそうでない者との間の対立は非常に大きい。ジャーナリストや大学教員といったいわゆる知識人が、トランプ前大統領を人格攻撃も辞さないほどけなすのは珍しくない光景だった。

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