イスラエルの哲学者が「トランプ」を動かした訳 米国保守主義再編や欧州ポピュリズムにも影響

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さきほど見た国連総会の演説でも明らかだったが、トランプ前大統領はナショナリストであり、「帝国」に反対し、「多数の国々からなる世界」を支持する者である。それゆえ、ハゾニー氏が指摘するように、地球市民的信条をもつ者が多い知識人層から蛇蝎の如く嫌われるのかもしれない。

「グローバル化」に対置すべきは「国際化」

本書の意義は数多くある。すでに述べたように、欧米の新しい保守主義を理解するのに資するであろうし、先進各国で進む国民の分断現象を考察する際にも有益な視角を与える。

本書のさまざまな意義のうち、わたしがとくに指摘したいのは、本書の議論が、現行のグローバル化の問題点を認識し、それを克服しうる「ポスト・グローバル化」(グローバル化以後)の世界の在り方を考えるうえで必要な認識の枠組みを与えるという点だ。

現在では、グローバル化やグローバリズムを批判すれば、周囲の者から「孤立主義者」「鎖国主義者」「排外主義者」「極右」「内向き」といったレッテルを貼られてしまうことが少なくない。

しかし、本書の議論のように、グローバリズムを、国境線を取り払うことを目指す「帝国」思想の一形態だと認識し、それに対置すべきものとして「多数の国民国家からなる世界」があることを念頭に置けば、議論の幅が広がる。

「グローバル化」「グローバリズム」の反対は、「孤立主義」や「鎖国」ではなく、いわば「国際化」「国際主義」、つまり多様な異なる国々からなる多元的な世界をつくり出すことだと考えることができる(この点について、わたしは以前、新聞の論説に書いたことがある。「脱・グローバル化の世界構想を」『産経新聞』2019年10月2日付)。

実際、ブレグジットを推進した英国の市民団体は、EUからの離脱は孤立主義を意味するのではなく、自国の行く末を国民自らが決定する国民主権の回復にほかならないと訴えていた。

このように、本書は、グローバル化の問題点や、その克服を目指し、グローバル化以後の世界の在り方を考えるうえで、われわれの視野を拡大するのに大いに寄与するはずである。

施 光恒 政治学者、九州大学大学院比較社会文化研究院教授

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せ てるひさ / Teruhisa Se

1971年福岡県生まれ。英国シェフィールド大学大学院政治学研究科哲学修士(M.Phil)課程修了。慶應義塾大学大学院法学研究科後期博士課程修了。博士(法学)。著書に『リベラリズムの再生』(慶應義塾大学出版会)、『英語化は愚民化 日本の国力が地に落ちる』(集英社新書)、『本当に日本人は流されやすいのか』(角川新書)などがある。

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