イスラエルの哲学者が「トランプ」を動かした訳 米国保守主義再編や欧州ポピュリズムにも影響
ルーバン氏はまた、ハンガリーのオルバーン・ヴィクトル首相のような欧州のいわゆるポピュリズムの指導者にも、ハゾニー氏は影響を与えていると示唆している。
新しい保守主義の潮流とは、一言でいえば、新自由主義(市場原理主義)に基づくグローバリゼーションの猛威から、国(ネイション)や地域社会の伝統や文化、あるいは庶民の生活を守ろうとするものだ。
これは、ナショナリズムと親和性が高い。グローバリゼーションから人々の生活を保護するため、国民国家の役割を重視するからである。アメリカにおけるトランプ大統領の登場や英国のEU離脱(ブレグジット)、あるいはフランスの「黄色いベスト運動」など反グローバリズムの動向の背後にある思想だとも言える。
たとえば、トランプ大統領は2019年9月の国連総会の演説で次のように語った。本書の影響が色濃く表れているとみてよいだろう。
「愛するわが国と同様に、この会議場に代表を送っている各々の国はそれぞれの歴史と文化と伝統を慈しんできました。それらは守り、祝福するにふさわしいものですし、われわれに並外れた可能性や強さを与えるものでもあります。
自由な世界は、各国の基盤を大切にしなければなりません。国々の基盤を消し去ったり置き換えたりしようなどと試みてはなりません。
……あなたがたが自由を欲するならば、祖国を誇りに思いなさい。民主主義を欲するならば、あなたがたの主権を大切にしなさい。平和を欲するならば、祖国を愛しなさい。賢明なる指導者たちはいつも自国民の善と自国を第一に考えます。
未来はグローバリストたちのものではありません。愛国者たちのものなのです。主権をもち独立した国々こそ、未来を有するのです。なぜならば、このような国々こそ自国民を守り、隣国を尊重し、そして各々の国を特別で唯一無二の存在にしている差異というものに敬意を払うからです」
2つのビジョン
本書の内容をごく簡潔に紹介していこう。
第1部「ナショナリズムと西洋の自由」では、著者のハゾニー氏は、西洋の政治の伝統には、理想的世界の在り方について、大別して2つのビジョンがつねに存在してきたと述べる。
1つは、「多数の国民国家からなる世界」である。それぞれが自分たちの伝統や文化、言語を大切にし、それを基盤とした国をつくる。そうした多数の国々からなる世界である。
もう1つは、「帝国」の伝統である。合理的で普遍的な道徳や法を世界にあまねく行き渡らせ、それに基づいて統治が行われる世界である。人類全体が1つの共同体に統合されるという世界像である。
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