イスラエルの哲学者が「トランプ」を動かした訳 米国保守主義再編や欧州ポピュリズムにも影響

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ハゾニー氏は、グローバル化を礼賛する現代の風潮は、後者の帝国の伝統に含まれると見る。つまり、グローバリズムは帝国主義の現代的形態だとみなす。

この2つのビジョンは、西洋の伝統にはつねに存在してきたが、時代によってどちらが優勢であったかは異なる。「多数の国々からなる世界」の源流は旧約聖書である。旧約聖書には、イスラエル、アモン、モアブなど、さまざまなネイションが登場し、それぞれが自分たちの神を抱き、独自の掟やルールを守って暮らした。

「帝国」が強くなったのは、キリスト教が国教化されたローマ帝国の時代に始まる。ローマ帝国は周辺のさまざまなネイションや部族(tribe)を統治下に置いた。「帝国」の時代は、形を変えつつも中世まで続く。

「国民国家」の伝統が復活したのは、宗教改革以降のプロテスタントの興隆の時代である。第2次世界大戦までの近代欧州は国民国家の時代だった。第1次世界大戦後にウッドロー・ウィルソンが「ネイションの自決」(national self-determination)を、追求すべき理想に掲げたことからもわかる。それぞれのネイションが独立国家をつくることが、自由や平等などの進歩的理念の実現、および近代化への道だと考えられたのだ。

だが、第2次世界大戦中のナチス・ドイツの蛮行がナショナリティーの評価を一変させる。ナチスの蛮行はドイツのナショナリズムに由来するものだと欧米の知識人が受け取ったためである。

ハゾニー氏は、ナチス・ドイツを動かしたのは「第三帝国」という表現に表れているように「帝国」のビジョンと見るべきだと論じる。しかし、欧米知識人の大半はナショナリズムこそナチスの蛮行の要因だと解釈してしまった。

そのため、現在に至るまで第2次世界大戦後の欧米では(日本でもそうだが)「帝国」のビジョンが優勢で、たとえば、欧州では国民国家を廃し、EUを創設することが人類の希望だと見るようになった。

国民国家体制の利点

第2部「国民国家とは何か」では、国民国家の擁護論が展開される。

現在の政治理論の主流であるリベラリズムの前提を疑うところからハゾニー氏は議論を始める。リベラリズムの理論の前提にある個人主義的な人間観に疑問を呈するのだ。ハゾニー氏は、人間は社会的存在であるということを強調し、家族、氏族、部族、ネイションといった共同体をつねに形成するものだととらえる。

家族が集まって氏族を作り、氏族がまとまり部族となる。そして部族の集まりをネイションとみなす。ネイションが政府を樹立し国民国家となる。国民国家は、自己利益を望む個人が結びついたものではない。家族がそうであるように、個々人は集団の目的を自分の目的とし、集団に忠誠心を抱くと同時に、ほかの構成員と互いに結びつくことができる。

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