混迷の東京五輪「選手をサポートする企業」の本音 企業がスポーツ選手を支援する長期的な狙い

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「私もかつて体操をやっていて、内村選手のような唯一無二のトップ選手をサポートできれば理想的だと考えていました。その念願が叶い、2017年にスポンサー契約を結んでからは、社内露出や講演といった自社向け啓発活動に尽力いただきました。彼の高いプロ意識と大舞台から逆算して行動できる緻密さから学ばされることは非常に多く、社員にもいい効果があったと思います。

それを踏まえて今回、さらに上の所属契約という形を取らせていただきました。内村選手とは東京五輪後も長く関係を築き、アスリートが不安なく競技に取り組める環境を一緒に作っていけたらと考えています」と中村靖弘社長は力を込める。

アスリート側にも求められる積極的姿勢

ジョイカルジャパンは2017年時点で59億円の売り上げを記録していたが、2021年時点では84億円まで数字を上乗せしている。コロナ禍直前のオンライン相談システム導入も奏功し、着実に業績を拡大している。そんな背景があったからこそ、年間数千万単位のスポンサー契約から億単位の所属契約にグレードアップできたのだが、それだけの投資に踏み切った以上、彼とともにプラスをもたらし合える関係を築くことが重要になる。

「これまで企業のアスリート支援はCSR(企業の社会的責任)とPRの2つしか目的がなかったと思いますが、コロナ禍で体力や余力がなくなり、サポートを断念せざるをえなくなる会社も少なくない。われわれのような中堅企業がもっとアスリートを支えようという考えを持つべきだし、共存共栄をより真剣に考えていく必要があります。

アスリート側も企業からのお金で活動し、宣伝に貢献するだけでなく、何かを一緒に作り上げるような積極的姿勢が求められるのではないかと感じます。それは内村選手にも賛同をいただいている点です」と早川由紀夫取締役も神妙な面持ちで語っていた。

東京五輪をめぐるゴタゴタを機に、スポンサー企業とアスリートがともに支え合い、スポーツを活性化するような試みも求められてくる。

東京五輪の逆風によって、未来のスポーツ界を担う人材が減ってしまう恐れもある今だけに、実際にアスリートに関わる企業の声に耳を傾けてもらいたい。

元川 悦子 サッカージャーナリスト

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もとかわ えつこ / Etsuko Motokawa

1967年、長野県生まれ。夕刊紙記者などを経て、1994年からフリーのサッカーライターに。Jリーグ、日本代表から海外まで幅広くフォロー。著書に『U-22』(小学館)、『初めてでも楽しめる欧州サッカーの旅』『「いじらない」育て方 親とコーチが語る遠藤保仁』(ともにNHK出版)、『黄金世代』(スキージャーナル)、『僕らがサッカーボーイズだった頃』シリーズ(カンゼン)ほか。

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