揺らぐタイの“国体”  反政府行動制圧も、政情不安は深刻化

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タクシン首相自身も「私のコントロールが聞かなくなった」と表明、抗議活動が自らの手を離れてしまったことを示唆している。政府側も多数の死者を出してしまった事実を見れば、危機管理能力があったわけでもなく、被害の拡大は想像を超えていたフシがある。

そして政府支持者も、タクシン元首相が実施したポピュリズム的政策の復活を恐れ、UDD側の「議会の早期解散・総選挙」といった要求は到底受け容れられず、親タクシン派との溝は深まるばかりだ。

「2006年のクーデターが今回の混乱の出発点」と、アジア政治が専門で拓殖大学国際学部の甲斐信好教授は指摘する。不正腐敗にまみれていたタクシン派の政治家だったとしても、選挙という民主主義的な手段で選ばれた政権を時代錯誤的なクーデターで倒してしまったことがそもそもの誤りだった説明する。

さらに、今回はタイ社会の基礎となってきた「王政」に対する疑問や不振が露出してきたのが気掛かりだと言う。

タイの現代史はクーデターの現代史と言えるほど、政情不安になるたびに軍がクーデターを起こし政権を崩壊させ、その後民政移管するというパターンを繰り返してきた。それでも国体が失われることなく、タイがタイでありえたのは国民から絶対的支持を集めるプミポン国王を頂点と抱く王室がタイ社会の貴重かつ聖なる存在として君臨していたためである。

ところが「クーデターは怖くないが、国王が亡くなった後のタイを考えると非常に不安」と口にする国民が増えてきている」(甲斐教授)。

すでに82歳のプミポン国王は今回、1992年のクーデター未遂事件で見せた鮮やかな説得もできなかった。当時、軍を背景としたスチンダ首相と民主化運動グループの指導者チャムロン元バンコク市長を玉座の前に座らせ混乱を収めるよう諭したような姿は見られず、王室としても事態を傍観するしかなかった。

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